61話 ページ12
パァン！
入場し、ようやく競技開始のピストルが鳴り響き、第一走者がスタートした
「リナーっ！！走れーーっっ！！！」
自分でも聞いたことのないような掠れた声でリナの名前を全力で叫ぶ
第一走者のリナがバトンを一位で渡し、
第二走者、第三走者とバトンが回っていった
ラインに立ってくださいと指示が出た時、私たちのクラスは2位
私が大丈夫、大丈夫、と心を落ち着かせながら横を向くと
隣のレーンで同じく緊張した様子の子と視線が重なる
私が少し笑いかけようと口角を上げると、彼女は不自然に左右に揺れて
その瞬間に私の体の中を何か嫌な予感が駆け巡った
彼女の目は少し虚ろで、尋常じゃない汗をかいている
咄嗟に伝えられるような人が身の回りにおらず、バクバクとうるさい心臓が私の余裕を蝕んでいく
その瞬間、横に風を感じて
一位がバトンを渡したことに気がついた
誰か、と心で叫んだと同時に黄瀬くんと目があって
それとほぼ同時で私と隣の女の子の手にバトンが渡った
罪悪感と心配が入り混じってどうしていいかわからないままがむしゃらに足を動かす
視界の端でずっと捉えている彼女は少し辛そうで
そんな彼女の足が少し不自然に緩んだのを
私は見逃さなかった
私が、助けないと
そう思った時
「A！！！走って！！！！」
聞こえないはずの彼の声が私の身体中を駆け巡って
私は思わず息を吸う
顔を上げれば目の前にいる一位の背中に
何故か異常な執着心が湧いて
私はもう一度強く地面に足をついた
1位と並ぶと同時にボワッとした感覚に包まれて
耳を貫く応援の声と体に響く速い息に青春を感じる
白いラインを体で受け止めて
それと同時に鋭い音が私の耳を貫いた
口から出る熱くて速い息
座り込もうとした私に、勢いよく走ってきたリナは
幸せそうに私へと飛びついた
「すごいよ、すごいよ、かっこいいよアンタ…」
息が上がって上手く返事ができないまま顔をあげると
先生に囲まれてタンカに乗せられるさっきの子を見つけて
それに気づいたリナが私に、彼女が倒れる瞬間に黄瀬くんが受け止めたと教えてくれた
「…そっか、よかった」
黄瀬くんは王子様だ。
「ほんとよく気づいたよね、危なかった…」
周りでは黄瀬くんと彼女を茶化す黄色い声が響いていて
このワンシーンが私の目にはお姫様と王子様のように映る
黄瀬くんを好きだと気が付きたくなかったけど
もしかしたら、もう、かなり戻らないところまで来ているのかもしれない
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作者名：りん | 作成日時：2020年10月21日 5時
