60話 ページ11
綱引き、玉入れ、棒引き…
溶けてしまうような暑さのなか、一つ一つ競技が終わっていく
「女子リレーに出場する選手の方は、入場門に集まってください」
暑さで今にも倒れてしまいそうな私の耳を、ガザガザのアナウンスが貫いて
私はそっと立ち上がる
するとすぐ横に座っていたリナも同じく席を立ち上がって口を開いた
「A〜、いこ〜」
その声に少し口角が上がって、私もハチマキを締めなおし「うんっ、！」と元気よく返事をする
どんなに暑くて倒れそうでも、やっぱり勝ちたいしたのしみたい
そんな思いで入場門へと足を運んだ
入場門の前ではすでに女子の列がパラパラと出来ていて、後ろにはボードをもった黄瀬くんが女の子と仲良く話しているのが私の目に飛び込んでくる
昨日まで近かった距離感が少し遠く感じて、なんとなく虚しい感覚が駆け巡り
またそんなことを考える自分が余計に嫌になった
もちろんアンカーの私は一番後ろに並ばなければいけなくて
ただ何となく近寄りたくないと言う気持ちだった私は
そっとため息を吐く
「え、女子リレーの担当黄瀬くん？」
「まじ？やば、最高じゃん」
列の中からボソボソ聞こえる声にまた胸が締め付けられて、
勇気を出して黄瀬くんに話しかける女子、その子に頑張ってねと声をかける黄瀬くん
あぁ、『みんなのキセリョ』だ、なんて柄にもなくそんなこと気にして、とくんとくんと疼く心臓を緊張のせいにして列へ足を運んだ
すると列の後ろに着いた時、私が座ろうとしたタイミングで黄瀬くんが振り返り
それと同時に重なる視線
そらそう、と思った時には手遅れで
「Aっち」
彼の優しい声が私の鼓膜を揺らす
女の子に囲まれた彼に気づいてもらうつもりなんてさらさらなかったし
まさか昨日こんな人と二人きりの時間を過ごしていたのかと驚いてしまうほどのオーラ
汗ばんだ額に、白いハチマキ、見慣れないクラスTシャツ…
選手宣誓で見たはずなのに、近くにいるとやっぱり意識してしまう
「ハハ、驚かせてごめんッス。頑張ってね」
他の子達もお構いなしにそう笑った彼の笑顔が眩しくて
その一言に、ほてったほっぺがさらに熱くなる。
そんなこと言ったら、また他の女の子に怒られちゃうじゃんか、と少し呆れてしまったけど
「C組が１位とるから安心して」
私は悪戯な笑顔で黄瀬くんにそう告げた
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作者名：りん | 作成日時：2020年10月21日 5時
