673話 ページ32
ずっと縮まったり開いたりしている点差のせいで気持ちは休まることもなく
決勝ゆえの緊張感に吐きそうになっていた
わたしは震える両手を握りながら祈るようにおでこを預けていて、横にいる監督に目をやれば
監督も険悪なムードを醸し出している
コートから戻ってくる黄瀬くんの足は小刻みに震えていて、何もできないわたしはさらに悔しさから握る力を無意識に強めた
「タオル、もらっていっスか」
座っているわたしのすぐ横にあるタオルすらも取る元気がないのか、黄瀬くんは力なくつぶやいて
それを誤魔化すようにヘラッと笑う
「あ、うん!!ごめんね、座って!」
タオルを乱雑に手渡しながらわたしが立ち上がろうとすると、タオルを受け取った黄瀬くんの手が優しく私の手に重なって
私は戸惑いながら彼の瞳を見上げた
「…正直、座ったらもう立てなさそう、、なんスよね」
その言葉でその場にいたみんなの顔が強張って
私も黄瀬くんにバレないように小さく唇を噛む
彼の足はおそらく最後まで誤魔化しながら戦うのが1番の策だと思われる
きっと私がマッサージをしてもさらにひどくなるだろう
さっきキツく巻いたテーピングのおかげで何とかごまかせているなら、わたしには何もできることはない
「…そっか、ごめんね、力になれなくて」
ふと口から漏らすつもりのなかった言葉が溢れて
わたしは「…あ、」と小さく声を漏らしながら手で口を押さえる
「…」
そんな姿を見た黄瀬くんは優しくわたしの手を取って
汗ばんだ大きな手でやわやわと存在を確かめるように触っていった
わたしが不思議そうに顔を見上げても、黄瀬くんはわたしの手から目を逸らすことなく
疲れ切って焦点のあっていない辛そうな顔で口を開いた
「…そんな握ったら血止まっちゃうッスよ」
そんな彼の優しい声はわたしの心の蟠りを簡単に解いていって
いつだって彼にはごまかせないと気がついた
「…っ、うん、」
まだ泣くべきじゃない、ここで涙を流したら負けだ、と思い歯を食いしばって我慢していると
黄瀬くんはさらに小さく笑って「ぺんだこやばすぎ」とつぶやいた
集中するためにわたしとは距離を置きたいと言っていた彼の言葉がフラッシュバックして
わたしを心配して声をかけたんだと嬉しくなる
それと同時に会場がざわついて
わたしはそっと彼の手から自分の手を引き抜いた
ゆっくりと顔をあげると、そこには私以上に辛そうな彼の顔があって
私は小さく息を呑む
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作者名:りん | 作成日時:2021年3月19日 10時