612話 ページ21
「あのな、俺は別にお前のことほんとに何にも思ってないからいいけど、」
そう呟きながら頭をかく尾川くんは
「…、他の男にその顔すんなよ」と続けた
瞬きを一度すればそれは尾川くんで、一瞬でさっきの魔法は泡のように消えていく
「…」
尾川くんだ、と再確認したと同時に頬に温かいものを感じて
それを見た尾川くんが「えっ!?えっ!?」と声を上げる
私は本当にいつも通りの表情のまま、一筋の涙を流していた
目の前であたふたする尾川くんは、ただどうしていいかと目の前で滑稽な動きをしているだけで
黄瀬くんと重なる要素は全くない
黄瀬くんなら、きっとどうしたのって言って優しく抱きしめてくれる
もし付き合う前のただの友達でも、横に座って優しく微笑んでくれるんだ
やっぱり…
「…黄瀬くんが好き」
わたしが涙を指でそっとぬぐいながらそう呟くと、尾川くんは「お、おう、?」と頭に疑問符を浮かべながら滑稽な動きを止める
そんな彼を見ながら、私は静かに「…尾川くんじゃ、だめだ、」と微笑みながら下を向いた
「…はい??めちゃくちゃ心外だぞ?おい??」
私の言葉に尾川くんは鋭い目つきで私を見て
私は「べっつにー、尾川くんみたいな人を好きになった方が幸せになれるのかなーって思ってただけですー」と舌を出しながら立ち上がった
「なんでお前が上からなんだよっ!!」
「少しでも好きになってもらえたら本望でしょー!?」
くだらない言い合いを続けているうちに頬の涙は乾いていて
会話の中に時折混ざっている彼の心配と優しさに
少し申し訳なかったなという気持ちが芽生えた
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作者名:りん | 作成日時:2021年2月25日 10時