7.夜間学校-1 ページ7
『しまった！！！！！！！』
「うるさいナァ」
『学校に書類忘れて来た！！！！！！』
逆先とAは暇な夜、こうして通話をしながらのんびり過ごすことがある。試験前だったり、Aの仕事が終わらない日だったり、一人で遅くまで起きているのが嫌な日は特に。
今日もその日で、Aが溜めに溜めた企画書や申請書なんかを夜のうちに全て片付けようということで通話を始めたのだが。
Aはスクールバッグの中を見て、見事にクリアファイルだけを学校に置いてきたことに気が付いて顔を青くした。いけない。明日の朝 椚先生に提出して、判をもらわなければならないのに。
まあしかしAが絶望していても、他人事の逆先はのんびりお風呂上がりのアイスを食べていた。今日はスイカバー。彼はスイカバーの一番下、緑色のサイダー味の部分が好きだった。
アイスの咀嚼に合わせて、Aの「うそお」「どうしよお」という嘆きの声が聞こえる。命に関わらないことなら全部オッケー、が座右の銘のひとつである彼女がこうなるとは、つまり件の書類を忘れると命に関わるということ。
流石にここまで来ると可哀想に思えてきて、逆先は食べ終えた棒をぽいとゴミ箱へ放ってディスプレイへと向き直った。
「明日の朝ハ？」
『間に合わない！！！ ところであの夏目さん、最近イヤホン買い替えたいっておっしゃってましたよね？ どのブランドが良いとかあったりします？』
「…何が言いたいノ」
『や、あの〜…』
「何？」
『今から一緒に取りに行くのついて来ていただけたりなどは』
「学校は警備員さんいるじゃなイ」
『無理！ 怖いさすがに』
「・・・」
『あ！ ね！ ほら！ 夏目も唯一の幼馴染が誘拐されたりしたらヤでしょ！』
「それは別にだけド…」
『ねえ〜〜〜〜お願いお願いお願いお願いほんとに 一生のお願いだから マジで お願いします』
ここで逆先はウンンと唸って考えた。先に紹介した通り、彼とAの家は徒歩5分。今から用意して駅で待ち合わせても、10分あれば落ち合うことは可能だが、なんせこの暑さ。彼は既に風呂に入った後で、もう寝る前のスキンケアなんかも全部終わらせているのである。
腐ってもアイドルなので美容には気を使っているし、純粋にこんな時間───20時である───から外に行くのも面倒だった。
が、しかし逆先も馬鹿ではない。Aが、借りたものはちゃんと返す人間だということを真っ先に思い出したのは、彼が幼馴染だからである。
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作者名：アボカドサラダ | 作成日時：2023年8月18日 21時
