柱の少女の物語３〈鬼滅の刃〉

少女と青年 ページ45

涙を流しながら、頸と切り離された体の腕をこちらに向けて伸ばし、

「ひとりにしないで、そばに居て」

そう言われたら。
きっとこの人も生前、人間だった頃に何かあったんだろうな。
君もひとりの被害者なんだろうな。
望んで人を喰い続けた訳じゃないんだろうな。

痛いだろうな、寒いだろうな、
死ぬのは怖いだろうな。


そう思ってしまう自分がいた。

だって分かるから。
身体から血が抜けていく感覚。
それに伴う悪寒と冷汗。

彼は生きていた痕跡も残らない。
そこにいたという事実すらも風に飛ばされ抹消される。

その死に対する怖さがわかるから、私は彼の最期の願いに応えた。


塵となり消えかけている頭部を抱き上げて膝に乗せ、伸ばされたその手を握り返し、

大丈夫、私ももうすぐにそっちに行くから

そう伝えた。


すると彼は消えゆく中で、私の言葉に対して頬を緩め、おそらく
「ありがとう」
そう言った。

最後まで言うことを世界が許さなかった。


少しでも救われたらいいな。
人間だった頃の記憶は戻ってきたかな。
君を待っていた人はいるかな。


「ごめん、待たせちゃって」

そんなことを思いながら振り返った。


すると突然、首元に刀を向けられた。
その相手はもちろん、冨岡義勇。
首に向けられるは彼の青い日輪刀。


「どう言う意味？これは」

見上げると、義勇の顔は苦虫を噛んだように歪んでいた。

「俺はお前が嫌いだ」

「、、、それで？」

「何故お前は鬼に対して同情する。
憎くないのか。殺すべき相手ではないのか。

俺は憎い。家族を、友を殺した鬼が憎い。憎い。許せない。
だからここまで這い上がってきた。

なのにお前は何だ。
いつもヘラヘラ笑って、自らの手で葬った鬼に同情して、お前はここで何をしている」


「うーん、鬼を殺して、人間を救ってる。つもりかな」


彼の、刀を持つ手に力が籠った。

「であれば何故！！
何故あのようなことをする！？」


強いて言えば、気持ちが少しわかるから。

そして、自ら望んで鬼になった子と、そうではない子がいることを知っているから。

最期にああやって懇願するような子は、後者であることが多いって知っているから。


でも、今の義勇には、というか鬼殺にいるほとんどの子達には、この気持ちは理解されづらいと思うから言わない。
秘密。


それよりも。
義勇がこうやって感情剥き出しで動くのは珍しい。

それがわたしに対する怒りであっても、私に曝け出してくれた事が嬉しい。

打ち解ける第一歩かもしれない。
だから。

あえて向けられた刀を素手で握り、さらに私に近づけた。

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