柱の少女の物語３〈鬼滅の刃〉

ふかい ページ46

憤りしか感じなかった。

お家柄この組織に属する彼女は鬼に対する大した思いもなく、ただ流れに身を任せて生きている、芯のない女だと思った。

思いが溢れた。
刀を握る手に力が入った。


すると彼女は、数秒の沈黙の後に
あろう事か自らの手で刃を握り、それを首元へ近づけた。

赤い、血が、流れ滴った。


「いいよ、私を刺して。
どうせ治すから。そして、力を多く使えばきっとすぐに私は死ぬから。
望み通りでしょう？」


「何を言っている」


「知らないの？
こないだも治してあげたじゃん。
その時の月色は、わたしの命。
私は与えた分、失っていくの。
体温も、血液も、やがては命も。

言ってなかったっけ。この力は何の代償もなしに使えるものじゃない。
代償はわたし。
私達月神は、鬼殺隊のために命を捧げて死にゆく人間だよ」


そう言って彼女は徐に隊服のボタンを外し、鎖骨から上胸部、肩を晒した。


そこにあったのは、桜の枝花のような紋様の痣。

一部は青黒く、一部は赤い。



それを語る彼女の顔は、笑顔ながらどこかに感じる深い、闇。
瞳は光を通さない。

笑っているつもりだろうが、自虐的。


「どうしたの？刺さないの？ほら、」


先日、確かに全治一月ほどの骨折をわずか数秒で治してもらった。

彼女が放つ月色は、暖かかった。
心が落ち着いた。

その優しさが、姉さんのことを思い出させた。


思えば確かに、治癒直後の彼女の手や腕は季節に合わず冷たかった。



それが、彼女の命を貰ったということだったとは。


分からなかった。

彼女はいつだって笑っていた。

つらいなんて言わなかった。

苦しいなんて言わなかった。


俺に会いにきていたその日、何人の人間に命を分けただろうか。




「、、、。
俺に、自分を信じろ、命を簡単に諦めるなと言った、
そのお前が自らの命を諦めるのか。」


初対面で彼女から貰った言葉、響いていないわけではなかった。

心が人を遠ざけた俺に継続的に寄ってきた人間なんて多くはない。
善意で言葉をかけた人も多くはない。

心の片隅で、彼女の言葉が響いていた。


「諦めてはないよ。望んでもいないけど」


「、、、何故。お前はそこまで身を削って人を助ける。所詮他人ではないのか」

この質問をする頃には、自然に刀をきらりに向けていなかった。


「うーん、そうだなあ。
あえて言うなら、私の、私個人の価値観による
どうしようもないエゴだよ。」


きらりは、またもヘラヘラと、他人事のように笑う。


彼女の深部は底深く、俺では届かない。のか。

ああ、不快だ。

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