20話 宝物 【作哉】 ページ21
「……すみません。やっぱり、こんなこと聞くのアレですよね」
と、安室さんは申し訳なさそうに頭を下げた。謝られてもいい気になれない。
安室さんの口から謝罪の言葉が出る。そんなこと私は許さない。どうせだったら、安室さんの口からもっと楽しいこととか面白いこととかそういうの聞きたい。
「いえ、話してもいいですよ?安室さんなら。でも、それと引き替えに電話番号教えて下さい」
「いや、それは……」
「なら、無しですね」
私は、きっぱり言った。すると、安室さんはため息をついて「仕方ないですね」と言って、電話番号とLINEのアドレスまで紙に書いて渡してくれた。
前払い。
もし、私が言わなかったらどうするつもりだったのだろう。
「これで、良いですか?」
「え、もし私が言わなかっただどうするんですか?前払いして……」
「……綾さんのこと僕、もっと知りたいなと思いまして」
安室さんはそう言って、上目遣いで私を見た。わ、死ぬ。何それ、号泣する。私は、顔が真っ赤になって机に伏せた。
キュン死レベルを超えた、鼻から血が流れているだろうか。それほど、破壊力があった。
「私も、安室さんのこともっともっと知りたいです」
「あ、でも、辛かったら話さなくていいんですよ。綾さんが悲しむところ見たくないですから」
「ほんと、安室さん結婚して下さい」
ガタンと椅子から立ち上がって私は安室さんの手を取った。すると、安室さんは頬を赤らめて視線をそらす。後ろのタケノコ眉毛と目が合ったのか視線を戻した。
知り合い、とか?
「両親は死んでますが、私には命を賭けても守らなければならない兄がいるので。その兄さえ守れれば幸せなんです。勿論、安室さんと結婚することも重要なんですけどね」
私は、そう言って、椅子を直す。
命をかけても守ると誓ったのは、母があの日、いや殺される前血相を変えて帰ってきたときのこと。
「お母さんお帰り……?」
「綾。聞いて…貴方にしか頼めないの。尊をいえ、今あるこの幸せを守って欲しい。他に望む事なんて無いから」
「ねえ、お母さんどうしたの?」
「綾、貴方達は私たちの宝物よ。だから、幸せになって。バイバイ」
その日思ったのは、もうお母さんに会えないというそんな予感。その予感は的中して、もう二度とお母さんになんて会えなくなってしまった。
あの日、とめていれば変わっていたかも知れないけど。
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