20. ページ21
ずーくんに教えてもらった衣服に身を包み、濡れた髪の毛を掻き上げる。前髪についていた水滴が少し顔について、うざったい。
「お風呂上がったよぉ」
ずーくんの寝ている所まで近づくと、くまくんが席を立ってお風呂場へ歩いていく。
少し覗き込むと、ずーくんはすやすやと心地よさそうな寝息を立てて寝てしまっていた。
間抜け面を晒しているのがなんだか可笑しくて、つい軽く笑ってしまう。
……熱が下がったとはいえ、病人は早く寝るのが1番よく治るからねぇ。
さらりと髪の毛を撫でると、冷えピタを取りにリビングへ行く。この家は生活用品が最低限しか揃えられていなくて、本当にこれで生活していられるのか不安になる。
まあ、そのお陰で体温計とかも見つけやすかったんだけどねぇ。
引き出しの中にある救急箱を開け、中から冷えピタと薬を取りだす。元通りに戻して部屋へ行こうとした時。
ソファーの脇に置いてある写真立てに目がいく。
引き寄せられるように近づくと、手に取ってみる。
写真には、満面の笑みで笑う両親とずーくんと……
「……っ、……
なぜ、この人の写真がここにあるのだろうか。
大翔先輩は今年の春、俺が3年に上がりたての頃に交通事故で亡くなっていた。
モデル仲間で、歌手をしていて。憧れの先輩だった。確か、俳優デビューも決まっていたっけ。
芸名が大翔で、俺も苗字は知らなかった。でも、いつも弟が、弟がって言っていたのは覚えている。
少し焦って、3年間1度も連絡を入れなかった電話番号を押す。事務所の社長だ。
俺を夢ノ咲に入れてくれたのも、アイドル活動を一時停止することを許してくれたのもこの社長。基本的に人が良く、朗らかな性格だ。
きっと聞けば、教えてもらえるだろう。
「はい、もしもし。〇〇事務所です」
「モデルの瀬名泉です。社長はいますか？」
なんだか慣れない、間延びしない口調。社長と2人の時は普通に話しててもいいんだけど人と話す時は敬語を使わないといけないからねぇ。
「泉くん？ どうした？」
久しぶりに聞く男にしては少し高めの声。このまま1時間ほど色々な話をしたい欲求に駆られるが、今はそれよりも優先すべき事情があるだろう。
「……大翔先輩の事なんだけど、本名って鈴原大翔であってるのぉ？」
なんだか大翔先輩の名前を呼ぶだけで声が震える。女々しいな、なんて思いつつも社長の返事を待った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 256人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
無名(プロフ) - 何年も前の作品みたいなのでお返事は返って来ないんだろうし伝わることもないのかもしれないとは思いつつも最高の話すぎてコメントを残したい。思わず涙出るほど感動しました。いいテンポで進んで読みやすかったです。最高の作品をありがとうございます。 (2023年1月3日 8時) (
レス) @page47 id: 04d38e0bdf (このIDを非表示/違反報告)
咲耶(プロフ) - この話凄く好きです。感動しました！ (2018年10月16日 5時) (レス) id: e18275a362 (このIDを非表示/違反報告)
早姫(プロフ) - 感動しました〜...！こう...仲間の大切さとか､友情ってこんな感じなんですかね？もしも､男主君が転生したら今度は幸せになって欲しいです〜！感動し過ぎて､涙が止まらず親に驚かれました...(￣▽￣;) (2018年5月24日 17時) (レス) id: 37587c2084 (このIDを非表示/違反報告)
果凛(プロフ) - かきぴーさん» 返信が遅くなり、申し訳ありません汗 そこまで言っていただけるなんて……！ありがとうございます。目を擦ったら腫れるので、ちゃんとハンカチで押さえてくださいね。笑 (2018年3月21日 8時) (レス) id: 38593f3572 (このIDを非表示/違反報告)
かきぴー - さっきから目を開いても前がよく見えないと思ったら瞼が腫れてるだけでした。めっちゃ号泣しました！！！隊長イケメン！！好き！！好きです！！！最後は家族の元に旅立ってしまった男主でしたが、仲間の大切さがよくわかる話でした！！ (2017年12月15日 22時) (レス) id: 41dff5bdb3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：果凛 | 作成日時：2017年8月30日 17時
