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「A苺みたい」
ぷちゅ、とコーティングでてらてら輝く真赤に熟した苺をフォークで刺して、また私の口許に寄せる。
ありがたく頂戴してもきゅもきゅと咀嚼している私を満足そうに眺めて、敦くんはそのまま私の頬を潰した。
『んッ!?』
突然のことに対応できず苺の果汁が口から漏れる。
「あ〜…でちゃった」
『や、でちゃったじゃなくて』
彼は掌を伝う果汁を舌でやらしく舐めとって「ん、口緩んでるんじゃない」となんという責任転嫁。
いつもの彼とは一味違う奇妙な行動についていけません。
そのあとは一言二言言葉を交えながらふたりでひたすらケーキを食べた。1ホールをふたりでということで暫くケーキはいいかなという気持ちになる。
『やっぱりケーキ屋さんのは格別だね』
数分前より会話の数が格段に減ったことに戸惑いつつ適当な話題をテーブルに伏した彼に振った。
「…」
『?敦くん?』
どんな言葉を掛けても無反応な彼にさすがに1ホールはきつかったかなぁ、と心配になって敦くんの顔を覆う長い紫色の髪にそぉっと手を伸ばす。
さらり、細い髪の束を退かすとてっきり瞑っていると思っていた目はしっかり開いてて私をぼんやり見詰めていた。
どきどき心拍を必死に抑えて冷静を装う。
『どうしたの?体調わるい?』
「…」
『へっ、わっ、ちょちょ』
頬を撫でた私の指先は敦くんの大きな手に握られ、そのままぐいっと彼の方に引かれるものだから前方にバランスを崩す。
結果、敦くんの顔にぶつかる寸前になんとか留まりふぅ…と一息吐いた。
『もう、敦くん危ないでしょ』
「…」
なにも答えず子供みたいに頬を膨らませて私から目を逸らす彼。拗ねてる理由の分からない私は取り合えず離れようとするも、敦くんは握った手を離してくれない。
『敦くん?』
「なんでわかんないの」
いや流石にわかんないよと胸中でツッコミつつ首をかしげれば、敦くんはもう片方の手で私の頬を覆ってぐっと引寄せた。
『んっ……むぅ、』
勢いは唇だけでは収まらず、歯と歯がぶつかってがちっと音が鳴る。痛いとかそれ以前に何が何だか分からなくて私の頭には?が浮かぶばかり。
『あ、あちゅしく、』
「あ〜…」
『も、ば、ばかぁ…』
ふにゃんと笑みを浮かべる彼を前に、緊張と羞恥が遅れてどっとやってきて顔がじゅんわり熱を孕むのを体感した。
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