秋風 ページ10
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北信介は授業中、徐に外を眺めた。グラウンドでは一年生がドッジボールをやっている。その中に北はすぐにAの姿を見つけた。
スラリと長い手足に小さな顔、遠目で見ても彼女がそこらの女子とは違うのが分かる。北はノートを取りつつ、チラチラと彼女の姿を目で追う。
Aは自分に惚れている。そんなのはもう何ヶ月も前に結婚してくれと言われて知っていた。あの侑と治の妹で、周囲の人間に好かれているAがなぜ自分を。北は何度も考えた。
開け放たれた窓からは心地よい風がふわり、と流れ込んでくる。
それと一緒に、体育を楽しむAの大きな声が聞こえてきた
「ナイスや、山田さん!!自分結構やるやん!」
「宮ぁ〜!!お前絶対倒す!!」
「おうおう、やれるもんならやってみぃ」
人の良いところを見て、すかさず褒める。周囲の人間を巻き込んで盛り上がる。仲間を鼓舞し、高める。彼女のいい所はそこだった。それを北は十分理解している。その性格に、少なくとも稲荷崎高校バレー部は何度も救われてきた。
だからこそ、だからこそ思った―――
「じゃあ、ここ北!読んでくれんか」
「……須磨には、いとど心づくしの秋風に、海はすこし遠けれど、行平の中納言の関吹き越ゆると言ひけむ浦波」
おれは君の気持ちには、応えられへん。窓際から吹いてくる秋風は先程のような心地良さはなく、冷たく寂しい装いを含んでいて、北は静かに窓を閉める。
先程まで聞こえていた体育の楽しそうな声がピシャリと止み、聞こえてきたのはシャーペンが紙を走る音と先生がチョークで走り書きをする音だけだった。
「ックショイ!!」
「宮さん風邪〜?暖かくせなアカンよ、秋はよう風邪引く季節やからなぁ」
「せやな〜、あ…もしかすると北さんが私の噂しようかもしれへん!!」
「どんだけポジティブやねん、宮」
ぶるり、と身震いしたAにクラスの男子が呆れたように笑う。でも、Aはクスリともせずにカラリとした青空を仰いだ。空には秋特有の鱗雲が青い絵の具に白を散らした様に浮かんでいる。
「じゃかぁしわ!!ええやろ、ポジティブ!!フラれんの上等!!何事も前向きに行かんと、それこそ私の魅力無くなってまうもん」
もしかすると、彼女の魅力はめげないことよりも……自分の魅力がそれだと知っていて、何があってもその体を保とうとしている所かもしれない。
そして恐らく、彼女の意中の相手はそれには気付かないでいるのだ。
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かなで(プロフ) - この間初めて読んだのですが、面白すぎて一気読みしてしまいました！評価ボタンが一つなのがとても惜しいです笑 これからも頑張ってください！ (2020年3月8日 15時) (
レス) id: e96d9c0e1e (このIDを非表示/違反報告)
ぴいち(プロフ) - 月埜さん» 月埜さん、コメントありがとうございます。連載当初から見ていただいて、こちらも感謝の気持ちでいっぱいです。最後までお付き合い頂きありがとうございました! (2020年2月26日 22時) (レス) id: f952b08383 (このIDを非表示/違反報告)
月埜(プロフ) - 完結おめでとうございます。公開初日から読ませて頂きました。月並みな言葉しか言えませんが、主ちゃんと北くんの関係が最初から最後まで本当に素敵だなと思いました。素敵なお話をありがとうございました！ (2020年2月26日 18時) (レス) id: d1ca7a883a (このIDを非表示/違反報告)
ぴいち(プロフ) - 柿山さん» 柿山さん今回もお目に止めて頂きありがとうございます!!真っ直ぐな主人公とそれを蔑ろにしてくれない北さんのモダモダした関係が続きますが、気長に読んでいただけたら嬉しいです! (2020年2月14日 10時) (レス) id: f952b08383 (このIDを非表示/違反報告)
柿山(プロフ) - あああ〜〜もう今回も今回とて好きです!!!夢主さんの北さんに対する真っ直ぐすぎる感情表現が堪りません…!!しかもそれを雑に扱うのではなく、丁寧且つスパッと対応する北さんの在り方も素晴らしいです!!!これからゆっくりと楽しみにしております…!!! (2020年2月13日 22時) (レス) id: 296b088bbe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぴいち | 作成日時：2020年2月13日 21時
