泡が五十二 ページ2
「其れにしても驚いたな。手前の異能が此処まで使えるとは」
Aの自室。
絢爛豪華な家具、立派な寝台、充実した家電。
壁には張り直された跡が処々見受けられる。
中原に牢獄から自室迄連れられたAは、キングサイズの寝台に寝転がって相手した。
「謳わせる方の事?首領は前から知ってたと思うけど」
「そうか。何で今迄使わなかった?其れと、其の異能は手前が歌わなくても発動出来ンだろ?」
「前にも同じ質問を聞いたわ」
「はぐらかしたろ」
「……別に、使いたくなかっただけ。歌って訊きたいことだけ吐かせる方が早く済むし、要らない事まで勝手に喋らせてしまうから。其れで得られる情報が有るって、彼の人が云うから仕方なく使ってるのよ。私が歌うのは、相手に謳わせるのに何もしないのは失礼だと思うから」
其れだけ云って彼女はシーツに顔を埋めた。
くったりと力の抜けた彼女は、シーツを固く握っていた。
其の上に、中原が手を乗せる。
「済まねえな、無理させちまって。俺がもっと能弁だったら、お前にそんな事させねえで済んだのに」
「やめてよ、私はもう大人なの。其れ位仕事だって割り切れば幾らだって出来る。出来ないのは一人で歩く事、建物外に出る事だけよ」
首を90度回転させ、横目で中原を見詰める瞳は、自虐的に歪んでいた。
太宰を追って外に出たAに与えられた罰は厳しいものだった。
首領は建物内でさえ一人で歩かせず、彼女の入った部屋には外鍵を掛けさせるようにした。
そして尾崎の拷問班に彼女を加え、其れ以外の仕事は一切させなかった。
ポートマフィアの人魚姫はもう死んだのだと密かに囁かれる程、森のAに対する拘束は強かった。
太宰が消えたこともあってか、以前より塞ぎ込むようになり、外に出ない為に肌は病的なまでに白くなった。
心配した紅葉が彼女の部屋を訪ねて、仕事の他に礼儀作法を教えてやる時間などを設け、成る可く側にいるようにしてくれたが、幹部ともなれば仕事量も多く、余り目立った効果は見られなかった。
ただ、口調がややお淑やかになり、子供だった中身が漸く容姿に追いついた。
運動量もグッと落ち、週に一度程中原が稽古をつけてやるも、体力は落ちていくばかりであり、本人は荒い息で下唇を噛み締めることが多くなった。
彼の下にある手も、細くて折れてしまいそうだった。
「A……」
「何?」
「俺が、何時かお前を自由にしてやる」
Aは何処かで聞いた、と曖昧に微笑んだ。
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作者名:京beスウィーツ | 作成日時:2017年9月24日 9時