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何も知らない3 ページ5

「ただいま。」

返事は返ってこない。

まぁ、誰もいないのだから仕方のないことだが。

ちょっと、寂しい。

「よし、夕食にしよう。」

そんな気持ちを振り払い、買ってきた食材を冷蔵庫へしまう。


フライパンの上でハンバーグを焼いている時、ふと、外を見て気づいた。

――雨だ。

ちょうど焼き上がったハンバーグを皿に移してから、急いで洗濯物を部屋へと入れるために走った。

外に干しておいた服の大部分は、びしょ濡れだ。

洗い直しかぁ。

そんなことを考えながら、それを部屋へ移していく。

最後の一枚を片付けるために服に手をかけた。


瞬間、雨の音に交じって他の音。

何かが倒れるような音を聞いた。

顔をあげると、家の前に黒い人影が倒れていた。

手に持った服を部屋へ投げ入れると、その人影の横に足をついた。

「あの、大丈夫ですか!」

声をかけても、荒い息を吐くだけ。

このままじゃ、風邪をひいてしまう、そう考え、黒い外套を着た青年を家の中へと運ぶ。

身長が足りなくて、ほとんど引きずってしまったがこの際、仕方がないと思う。



黒髪の青年をソファーに寝かせたときに気づいた。

彼を支えていた手のひらが、赤く染まっていることに。

「血!?」

震える手で外套を脱がせると、その下、脇腹のあたりが赤く染まっていた。

な、なんで?

ってこんなこと考えてる場合じゃない。

急いで自室へと入り、ぬいぐるみの隙間から救急箱を取り出し、彼を寝かせた部屋へと戻った。

医学に関する実体験など皆無だ。

でも、本で読んだことくらいならある。

止血程度ならできるだろう。

慣れない手つきで、荒い息を繰り返す青年の脇腹に包帯を巻いていく。

漸く終わった頃には、青年の息は正常に戻っていた。

肩に入っていた力が抜けた。

青年に、布団をかけるとすっかり冷めてしまったハンバーグを飲み込み、書置きをしてから部屋へと戻った。


今日はよく、倒れている人を見つける一日だった。

まぁ、一人よりは嬉しいのだけれど。

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作者名:詩織 | 作成日時:2016年11月6日 11時

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