【文豪ストレイドッグス】蜂の在り処 4章

179針 ページ39

「如何かね、マフィアの隠れ家の住み心地は？」


与謝野、賢治、谷崎は聞こえてきた声に顔を上げる。


「楽園の住み心地…とはいかないが、一週間程度なら《猟犬》の目から隠れられる筈だよ」



三人が連れて来られたのはマフィアの所有するどこかの地下の一室。


シェルターとも呼べるようなこの部屋に辿り着くまでに、何度も階段を上り下りしたのはこの場所を特定されるのを防ぐためである。



「森医師、自爆して堕ちた国木田の安否は判らんのかい」


疲れきった表情の与謝野の質問に、森は視線を横に逸らした。



「残念乍ら判ったのは太宰君の顛末くらいだが…。


太宰君は人質事件より前に《猟犬》に逮捕されていた。

薬で眠らされて身柄を軍警から法務省、更に公安へと移され、その先は杳として知れず、だ。

マフィアの情報網も届かぬ深部…相当善くない場所へ送られたのだろう」



「そんな……」


悲痛な谷崎の呟きがぽつりと響いた。



「Aさんは大丈夫でしょうか？

Aさんも人質事件の前から音信不通になっていますし…」



がっくりと項垂れる谷崎を横目に見ながら、賢治はここにいないAの名前を出す。


「Aも社長も、乱歩さんも、敦も鏡花も…みんなバラバラになっちまったからねェ…」



きつく握りしめた与謝野の手が小刻みに震える。

それを見た森は三人に気づかれないように軽く息を吐いて、静かに口を開いた。



「Aちゃんなら…今我々ポートマフィアの保護下にいるよ」



「「「！？」」」




バッと音がなりそうな勢いで顔を向けた三人に、森は静かな目で威圧する。


今は何も聞かずに自分の話を聞け、と言わんばかりの視線に、三人は開きかけた口を噤んだ。



「彼女は人質事件の前に軍警に襲撃されていた。

太宰君と同じく、彼女にも目が付けられていたのだろうね。


間一髪のところで軍警から逃げられはしたが、その際に大怪我をして我々に救けを求めた。

命に別状は無いが、集中治療室で安静にしてもらっているよ」




淡々とした森の声色に緊張していたが、命に危険がないことを知った三人は安堵して体から力を抜いた。



「でも、Aさんまでそんな状態だったなんて…」



「森医師、Aに会わせて欲しい。

大怪我をしているンなら妾の異能で治してやりたい」



与謝野は立ち上がって森に一歩前に出る。



森はそんな与謝野を一瞥して



「それは出来ない」



と冷たく言い放った。


･

180針→←178針

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す