【文豪ストレイドッグス】蜂の在り処 4章

177針 ページ37

口元に手を当て目を細めるAは何かを考え込んでいるのか黙っている。


桜庭はその様子を見つつ、Aに気づかれないように目だけで改めて部屋の中を見渡した。



この部屋と外を繋げるのは扉と窓のみ。


しかしこの場所は地上から遠く離れた高い場所に位置しているため、窓から出るのも入るのもありえない。


窓には内側から鍵が掛かっていて、それが触られた形跡はない。



扉から入ったとしても、ビル内に外部の人間が入って来た時点で、ビル全体に警報が鳴るはずだ。


しかし、その警報は鳴らなかった。



「(異能力、か？)」



考えられるとしたら異能力でこのビル、そして部屋に侵入したとしか考えられない。



「(ではなぜこの部屋に？東野参謀がマフィアに保護されているとどこから漏れた？


……本当に俺の見間違いなのか？)」




自分の見間違い、と簡単に納得することは桜庭には出来なかった。


桜庭は確かにあの時、白い髪の女をハッキリと見たのだ。



『まあ、治くんについては今の私がどうこうすることは出来ません。

それよりも他の皆さんのことをどうにかしましょう』



Aの声に桜庭の意識が引き戻される。




『それで？』



Aが桜庭を見上げる。



「それで、とは？」



緑色の瞳に見つめれ、桜庭は微かに狼狽えた。

真っ直ぐに自分を見てくる目が、何か別のものを見ているように感じる。



『森さんは他にも私に伝言があるのでは？』


「………流石です….」



口ごもっていた桜庭はその視線に負けて僅かに口角を上げた。




「確かに首領からもう一つ伝言がありますが、お伝えしようか迷っていました」



『マフィアの人間が首領の命令を躊躇うなんて、桜庭さんらしくありませんね』



言葉としては桜庭を責めているようだが、その表情は珍しいものを見て面白がっているように笑っていた。








「首領からは…君の怪我を与謝野くんに治してもらうといい、とのお言葉を預かっております」



Aの顔から笑みが消えた。


しん、と病室の中が静かになる。




『……どうして桜庭さんはそれを伝えるかどうか迷っていたんですか？』



話題を変えようとするAの口調に、桜庭は僅かに疑念を抱く。



「…東野参謀のことですから、怪我が治ったらまた貴方は街に戻り危険なことを平気でするのでは、と思ったからです。


貴方が無茶をする姿を何度も見てきましたから」




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