176針 ページ36
嘗てAが唯一、自身の全てを明かした男──中村草田男。
草田男は死ぬ前に桜庭にAのことを話していた。
「俺以外のことを全く信頼してないんだよ、あいつは」
悲しそうに笑っていた草田男の顔が、今でも桜庭の脳裏に焼き付いている。
当時の桜庭にとっては半信半疑であったが、補佐としてAとの距離が近づくとその言葉の真意を身をもって感じることになる。
だからといって桜庭はAに必要以上に踏み込むことは無かった。
それは仕事上での関係と、割り切っているのか、自分に云い聞かせているのか……。
知っている、という点で云うのならAの″それ″を知っているのは他にもいた。
森鷗外、太宰治、中原中也、尾崎紅葉、織田作之助。
この五人は特に知っていた。
いや、知っていたというよりは、感じていた、という方が正しいのかもしれない。
どんなに近づこうとしてもAはそれを許さない。
″それ″は意識的にやっているのではなく、Aに染み付いた癖のようでもあった。
故に眠っている時でさえAの警戒心が緩まることは無い。
嘗て眠っているAに近づいた一人の構成員が殺されかけた、という事件もポートマフィア内で起きたことがある。
だからこそ桜庭は眠っているAの脇に人が立っていたことに驚いたのだ。
『──……見間違い、でしょう。
お疲れだったら少し休んだ方が善いですよ、無理は禁物です』
Aは今一度部屋の中を見渡し、少し間を開けてから云った。
「お気遣いありがとうございます」
桜庭は軽く会釈をする。
『それで、桜庭さんが此処に来たのはどのような用件ですか?』
「首領より、探偵社員の身柄を無事に回収した、とのことです。
彼らは今マフィアの所有する地下室に待機しています」
『そうですか…』
どこか安心した様子でAは深く息を吐いた。
「しかし、国木田独歩は逃走中に自分を犠牲に自爆し、その安否は不明です」
『国木田さん…』
「それと太宰治は軍警から法務省、そして公安へと移送されましたが、その後は特定出来ていません」
『恐らく──』
Aは口元に手を当て目を細めた。
『治くんが送られた先は欧州の異能刑務所…「ムルソー」でしょう。
彼処なら異能対策は万全ですし、何より正確な場所は欧州の上層部しか知らない。
救けるのは困難ですからね』
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jumpcontrolbear(プロフ) - 砂漠のうさぎさん» コメントありがとうございます!なんと!!私の知らないところでこの作品の名前が上がっていたんですね!嬉しい限りです!!更新ゆっくりですが頑張っていきます!ありがとうございます! (2019年10月21日 0時) (レス) id: 34857aaa52 (このIDを非表示/違反報告)
砂漠のうさぎ(プロフ) - あるユーザーさんの紹介から飛んできて一気読みしました。原作の雰囲気を崩さないで新しいキャラが動いていて凄いと思いました。話の展開とか言葉のチョイスとかとても好みです…更新楽しみにしてます、頑張ってください!長文失礼しました (2019年10月20日 21時) (レス) id: ad3e66ea3f (このIDを非表示/違反報告)
jumpcontrolbear(プロフ) - 桜さん» コメントありがとうございます!!あけましておめでとうございます!!また動くみんなを見ることが出来ますね!相変わらずの亀さん更新ですがよろしくお願いします! (2019年1月5日 23時) (レス) id: 10ce31b7ea (このIDを非表示/違反報告)
桜 - あけおめです!今年ほ更新頑張ってください!作者さん文スト3期4月放送ですよ!来ましたよ!!いろいろと大変かもれませんが頑張ってください! (2019年1月5日 1時) (レス) id: c482d4ca60 (このIDを非表示/違反報告)
jumpcontrolbear(プロフ) - 桜さん» コメントありがとうございます!!番外編も読んでくださったんですね…(感涙)楽しんでもらえてなによりです!!亀更新ですが頑張りますので気長にお待ちいただけると嬉しいです! (2018年11月22日 9時) (レス) id: 10ce31b7ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:だし丸 | 作成日時:2017年8月31日 11時