偽アイヌ ページ5
それからというものの、尾形さんとは特にこれといった変化もなく過ごしていた。相変わらず彼は単独行動が多く、あまり一緒にいることはなかった。
そんな中、私達はとある集落へたどり着いた。そこでとある村人たちの家へとお世話になることになった……のだが。
「オソマ行ってくる！」
アシリパさんが元気よく駆け出す。それを見た杉元さんが「我慢できないのか？」と青ざめたように尋ねたが、「もうオソマが出口まで来ている！」と彼女は答えて走り去った。
アシリパさんはいつもこの様なことは言わない。それに、外にあったあの子熊の檻といい、違和感がある。
このままアシリパさんを一人にして大丈夫だろうか。
「わ、私……アシリパさんが一人でちゃんとできるか心配だから見てきます！」
「まぁ待て」
慌てて追いかけようとする私を、尾形さんが引き留めた。
「放っておいていい。あいつなら大丈夫だろう」
「でも、もしも何かあったら……」
「いいからここにいろ」
尾形さんは私をじっと見つめながら、静かに言い放った。その目は有無を言わせぬものだった。私はそれ以上何も言うことができず、大人しく従うことにした。
「ムシオンカミって、どう言う意味だ？」
尾形さんは村長さん達に尋ねていた。どうやら尾形さんもこの村長さん達に違和感を抱いているようだ。
エクロクさんたちは、尾形さんからの鋭い視線から逃れるかのように視線を彷徨わせた。すかさず、尾形さんが問い詰める。
「おや？もしかして分からんのか？」
「ムシオンカミはちょっと聞いたことがない。さっきの娘はこの辺のコタンの子か？アイヌ語にも方言がある」
「一体何を疑ってるんだ尾形！この人達に失礼なマネはゆるさんぞ！」
「こいつら、本当にアイヌか？」
杉元さんはまだ疑っていないようだ。杉元さんと尾形さんの言い合いが続く。しかし、二人の会話はどこまで行っても平行線のままであった。
すると突然、窓の外からの別のアイヌの女性が大声で「ウンカ オピウキ ヤン！」と叫んだ。
「…今のご婦人は、何と？」
その様子をみて、牛山さんが反応する。すると、口々に室内にいた女性たちも同じ言葉を発した。なんだか女性たちは切羽づまった様子でいる気がする。まるでこちらに助けを求めているような……。
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作者名：塩わさび | 作成日時：2022年8月11日 22時
