故郷 3 ページ18
「尾形さん？」
私がそう尋ねると、尾形さんはこちらを振り向いた。そして、「何でもねぇよ」とだけ言うと、再び視線を戻す。
その目は、やはり遠くの方に向けられていて、何を考えているのかわからない。
「じゃあAは？Aの好物はなんだ？」
「え？私ですか？」
「あぁ！」
突然話を振られてしまった。まさか自分に話が回ってくるとは思わなかったので、少し驚いてしまう。
「うーん…そうだなぁ…。あ、甘藷切干ですね」
「カンショ……？」
「……軍人芋のことだ」
私が答えるよりも早く、尾形さんが、ぼそりと呟くように言った。
甘藷切干というのは、薄く切った甘藷を長時間乾燥させた物である。保存も効き、腹持ちも良いとされていたので軍人にとっては重要な物であるとされていた。
「へぇ〜！Aちゃんって意外と渋いもの食べるんだね」
「私の故郷、茨城ではあまり馴染み深いものでもないんですけどね…。昔、近所のおじさんが作ってくれて美味しかったので好きになりました」
「Aさんの故郷は茨城なんだね。いいところなんだろうな」
杉元さんは懐かしそうな顔をして、空を見上げる。
「うん……。海も山もあって自然豊かだし、空気も綺麗で良い所ですよ」
「俺もいつか行ってみたいな」
杉元さんがじっと私の方を見る。私は、何だか照れ臭くて俯いてしまう。すると、杉元さんもそれが移ったのか、「あっいや、別に深い意味はないよ！？」と言って顔を赤らめるので、白石さんが「何顔赤くなってんだよォ〜」とすかさず茶化す。
そんな風に、和気あいあいとした雰囲気で旅路は順調に進んでいった。
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作者名：塩わさび | 作成日時：2022年8月11日 22時
