支遁動物記 ページ19
「お腹空いたね」
「…空きましたね」
下山して数日。
第七師団の追手が来ないと判断して、今日はアシリパさんと杉元が猟へと出かけた。大人数で猟に行くのは危険だという判断で、白石さん、尾形さん、私の三人は留守番していた。正直、白石さんがいてくれてよかった。尾形さんと二人きりは、色々と気まずすぎるから。
しばらく白石さんとの会話を楽しんていると、杉元さんとアシリパさんが戻ってきた。その手には、1羽の鳥が握られている。丹頂鶴だ。
アシリパさんが捌き、鍋が出来上がった。しかし、次第に周囲に独特の臭いが立ち始めた。
「なんで丹頂鶴なんて獲ってきたんだッ」と白石さんが文句を言っていたが、せっかく獲ってきてくれたのだから文句は言えない。腹に入れてしまえば同じだろうと考え、頑張って食べた。
「……杉元は…、どうして金塊が欲しいんだ?」
食休みをしていると、アシリパさんから杉元さんへ、疑問が投げつけられた。確かに、私も何故彼が金塊をほしがっているのか知らない。
「まだ言ってなかったっけ。戦争で死んだ親友の嫁さんをアメリカに連れてって、目の治療を受けさせてやりたいんだ」
その言葉に、アシリパさんも白石さんも驚いた表情を浮かべる。杉元さんは、何かを思い出すように目を細めていた。
「『惚れた女のため』ってのは、その未亡人のことか?」
尾形さんの問いに、杉元さんは何も答えなかった。気まずい空気が流れる。すると、突然アシリパさんが立ち上がり、服の裾を頭の後ろにバサバサと動かし始めた。アシリパさん曰く、それは鶴の舞らしい。
「へぇ……、どうして急に踊ったの?」
「別に…、鶴食べたから」
動いたからなのか、それとも別の意味なのか、アシリパさんの顔は赤くなっていた。その姿を見て確信する。…きっとアシリパさんは、杉元さんのことを……。そう思うと胸の奥がきゅっと締め付けられたような気がした。
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作者名:塩わさび | 作成日時:2022年8月11日 22時