異 時 代 交 流【戦バサ逆トリ】

六　分かんないです ページ6

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この人、大分心をやってるな。
と、思う前に私の心の内は揺れていた。

聞きたい、でも聞けない。

覚えていただけているかは定かじゃないが、私は思いっきり理系。もう、文系科目はズタボロの範囲を超えているくらい。

つまり何が言いたいかというと、謀反を起こして失敗に終わったとか言われても訳分からないし、柴田さんって、どこの柴田さん？ って具合で。
でも落ち武者さんも柴田さんも、最早柴田さんが誰かを知っているのを前提としてお話されているので聞こうにも聞けない。
というよりこんな、明らかに病んでる人に、『あなた誰です？』なんて言おうものなら……
一応私は、将来精神科医になりたくて勉強をしてることもあり、容易に口を開けるわけはなかった。先生、私こんなとこで実習やるとか聞いてません。

でもこれで分かった、私を殺そうとしなかったのも、(彼の誤解だけど)毒入りのご飯を口に運んだのも、全部自棄になっていたから。それか、考えにくいけど死にたかったから。考えにくい、とは言いつつ今の口ぶりはまるでとどめを刺されたがっているようだったから、よく分からないけど。

でも私としては、そんなつもりは毛頭ないし、馬鹿にしているつもりもない。ただ、ご飯を食べて休んでもらいたかっただけで。
でもこのままじゃ埒が明かない。

成程これが『詰み』というやつか。

「……分かんないですけど！
とりあえず食べて寝ましょっか。
きっと疲れてるんですよ。
明日落ち着いてからまた、お話聞かせてください。色々と教えて頂きたいこともあるので！」

もう思わず『分かんない』と言ってしまったし。
私ダメだわ。

でも、とりあえず時間がほしい。
そしたら明日までには柴田さんの正体と当時の暮らしくらいなら調べ上げるから。
とりあえず着物の洗い方から調べないと。
いや、柴田さんの正体からだ。
謀反？ とかまず織田信長しか知らないし。

しかし彼が諦めに入っているのがせめてもの救いだ。いや本当に、辛い思いをしてる人に何を言ってるんだと自分でも思うが、とりあえず今だけはありがたい。だって刃物を向けられることも抵抗されることもないんだから。
勿論のこと私は危害を加える気はない。とりあえず今彼は素直に筑前煮を食べてくれているし、勧めれば寝てくれるだろう。
……待って、うち下宿のアパート暮らしだから布団1枚しかないけど？ ベッドなんて高価なもの、いくらメゾネット式の家といえどある訳がないし。

……今日はソファで寝るか。

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