異 時 代 交 流【戦バサ逆トリ】

三八　夜更かし ページ38

*


彼の言うままぎょうぶ、と復唱すると、分かっておらぬなと溜息をつかれた。
でもはっきり言って溜息をつきたいのは私だ。

「だって、今までそんな名前の人に出会ったことないんですもん。だから、ただ復唱するしかできないに決まってます。知らないんですもん」

すると帰ってきたのは更に重い溜息。

「嗚呼、分かったわ。われは理解した。
ぬしは、われが『ぎょうぶ』という名前であると思いやったのだな。なるほど、漸く理解した。

つまりぬしは異国人の名前を呼ぶかのように、三成や左近の呼ぶのをそのまま復唱していたのだな。ヒヒヒ、阿呆め。
ヒヒッ、いやぁ愉快ユカイ」

挙句の果てには手を叩いて笑われる始末だ。
何だろう、凄いイラッときた。子供か私は。

「違うんですか。
てっきり渾名か何かだと思ってたんですけど」

「違うわ、当然よ。いいか、聞きやれ。

奴らの言う『刑部』は、われの役職みたいなものよ。ぬしらに伝わるかは分からぬが、家臣が自らの主を『殿』と呼ぶ、それに近しいものだ」

分かった、伝わったとも。
つまりアレだ。私たちが先生のことを『先生』って呼ぶそれみたいなものだ。つまり私は『先生』という名前の人がここにいると思い込んでいたことになる。
彼に理ってからスマホで『ぎょうぶ』と検索をかけると確かに、『刑部』という位がすぐに出てきた。

「……伝わりました、羞恥心で死にそうです。
じゃあ刑部さんは刑部っていう立場なだけで、お名前は別で存在するってことですね」

「そういうことよ。
……どうだ？ 眠気は覚めたか」

そこまで来てはたと元の目的に気付いて笑う。
程々には、と答えるとまだ目が虚ろだと指摘される。これは早めに仕上げて寝ないとな。
何より刑部さんが全く寝ようとしない。

「……しかし、ぬしがこんな夜更けに頑張る羽目になったのはわれらが突如ここへ来たからであろ。
それに関しては誠に申し訳ないと思っている」

「はは、いや別に。
久しぶりに賑やかになって楽しいので。

あさひもあんなに遊んでもらったの久々どころか、初日に浅井夫妻が構い倒して以降だったので、なんと言いますか、助かりました」

ありがとうございます、と言いながら、論文の結論部分を締め括る。

「よし、あと、レポート2まぃ………」

と、呟くと突如襲ってくる堪えられないくらいの眠気。呟きながら、意識を飛ばした。

カフェイン剤飲んだのに、おかしいな、と心の中で呟いたが声にはならなかった。

三九　東雲の薄藤→←参漆　敗北

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