参伍 嘘吐き ページ35
＊
静まり返った部屋で一刻が過ぎた頃。
目を開けて、他が寝ていることを確認してから静かに身を起こす。
そして足音を立てないよう─まぁ音が出る訳はないのだが─ゆっくりと部屋を出る。
廊下に出たところで奥から光を感じる。
やはりか、という納得感。それに混ざる僅かな失望は、この短期間で僅かなりとも自分が絆されたということ。珍しいこともあるものだ、と音には出さず喉の奥で自嘲的に笑う。
さて、どうしてくれようか。
この戸を開けた先には、いるだろう。
すいと戸を開けると、想像したままの家主の背。
何やら書き物をしているようだ。
さて、呪術の類か何なのか、『私も寝ます』なんて嘘を吐いてまでやっている事がいい事ではないのは確かだ。
声を掛けようか、一撃で仕留めるか。
ふと頭を回した時。
「眠れませんか？ ぎょーぶさん」
数刻前まで聞こえていた声で、相変わらずたどたどしく呼ばれたのは自分の名。敵意は感じない。
背は向けたままだ、音は発していないゆえに近くへ例の霊が控えていることが察しとれる。
「……ヒヒッ、何。好奇心よ、好奇心」
「そうですか、なにか飲まれます？」
「あぁ、すまぬな」
本当は喉など渇いておらぬし、出されたとて飲めるような心境ではない。しかし、ここで要ると言えば準備のため別室へ下がるだろう。
その際にここで致していたことを盗み見てやろうというのが魂胆だ。
少し待っていろと案の定部屋を出るA。
その隙にすいと御輿を動かし、先程彼女が座っていた場所を覗き込む。すると何やら沢山の文字が書かれた紙。南蛮語も見えるが、そこを除くと形に差異はあるが基本的には読めないことはない。
ただ、その読める言語─日の本の言葉─が左から右へと書かれているのは酷く違和感があった。
「気になりますか？ 私の学問のものですけど」
差し出されたのは白湯のようなもの。
まぁそれが何であろうと口にする気は毛頭ないため、礼だけ言って両手で湯呑みを包む。
「気になる、と言えばそうなのかもしれんなァ。
ぬしがわれらに、『寝る』と嘘を吐いてまで何をしやるか……気になるのは当然であろ？」
ここまで言えば少しは焦った素振りを見せるだろうかと、敢えて訳を口にしたがそれが現れる様子はない。寧ろ、笑みが浮かべられる。
「……ぎょーぶさんって、優しい人ですよね」
「何を言いやる、われが優しい？
ヒヒ、ぬしの目は節穴か」
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さしみ(プロフ) - 初コメ失礼します！長らく更新させてないようですがとても面白かったです。いつか更新されるようならまた読みに来たいです。更新されるようなら無理せず頑張ってください。 (2020年12月4日 13時) (
レス) id: 52bb9638d4 (このIDを非表示/違反報告)
朔夜(プロフ) - 御津さん» お返事が遅くなりすみません！御津さん初めまして、ご感想とリクエスト、ありがとうございます。そろそろ1巻をキリよく終わらせるのに誰か居ないかなぁ…と迷っていたところでした是非瀬戸内にはトリを飾ってもらおうと思います！今後も完結までよろしくお願いします！ (2020年2月3日 18時) (レス) id: 959b48d95f (このIDを非表示/違反報告)
御津(プロフ) - すっごく面白いです！よろしければいつか瀬戸内(毛利と長曾我)も宜しくお願いします。更新お待ちしてます (2019年11月15日 17時) (レス) id: 672fceb52b (このIDを非表示/違反報告)
朔夜(プロフ) - 旅人さん» 旅人さん初めまして、温かいお言葉ありがとうございます！お市様は私が薙刀時代しか詳しく知らないのもあって薙刀にしました笑今後とも頑張りますのでよろしくお願いします！（また、他に誰か呼んだら面白げな方とかいればお気軽にお教え下さい！） (2019年7月17日 7時) (レス) id: 959b48d95f (このIDを非表示/違反報告)
旅人(プロフ) - コメ失礼します！主人公の周りが賑やかでとっても面白くて、あとその、お市様の薙刀時代(?)好きなのでめちゃんこ嬉しかったです…んんもう大好きです！これからも密かに応援させていただきます！無理のないよう、更新頑張ってください！ (2019年7月16日 20時) (レス) id: e903332221 (このIDを非表示/違反報告)
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