二四 別れの筆書き ページ24
*
「んーごめんね。少しだけ、顔も洗うね?」
手の中に収まる白い仔猫ちゃんに話し掛けながら顔に付いた泥を泡のついた手で拭ってやると、小さくみぃ、と鳴いた。
文房具屋さんにいた頃に人慣れはしていたのか、それとも単に眠気が勝っているだけか、私が触りまくっても、お湯へ浸しても、抵抗したり大きな声をあげたりということはなかった。
綺麗にしてやると、白く艶やかな毛はシルクのようでとても美しい。
『迷い猫 絹が如くの 美しさ
……彼奴らが言うから来てみたが、問題はなかったようだなぁ。ちょうど私と入れ違ったか』
「おじいちゃん!」
声にふと顔を向けると、久々の顔があった。
皺を浮かべ優しく笑う亡霊、おじいちゃんが言うには、自分は歌人で、普段は山に籠って色々詠んでいたのだとか。いつの人かは分からないが、足軽くんや落ち武者さんとは死んでから知り合ったようだ。
「ねぇ聞いておじいちゃん、今ね、うちに──」
『あぁあぁ、視えていたとも。
ふむ、しかし私は来ない方がよかったか』
お寺でよく見るような着物をふわりと揺らし、空中で優雅に正座をするおじいちゃん。
どうやら長く生きたからなのかなんなのか、少しなら過去を見ることができる。私の言葉に被せて少し申し訳なさそうな声が聞こえた。
私としては来てくれて嬉しいのだが、さっき入れ違った、と言ったことも含めて考えられる可能性は。
「……帰っちゃった?」
『嗚呼……しかもちょうど私と同時期にな。
いや、申し訳ないことをした。
折角楽しく暮らしていただろうに。
許せA、じじはお前を不幸にしたい訳じゃない故に。彼奴らも言わなかったし、私達が干渉しない方がよいことなど知らなんだ』
「そっか、いや。
おじいちゃん久しぶりに会えたから私はすごく嬉しいよ! 来てくれてありがとう、みんないつもどこにいるのかは分からないけど、最近なかなか会えなかったから寂しかったの」
猫ちゃんをタオルで包み緩く拭きながら部屋への道を戻る。やはりそこはもぬけの殻で、まるで誰もいなかったかのような寂しさがあった。
しかし足元には数枚の半紙。
ちゃんと名前、帰るまで考えてくれてたんだ。
さてさて正義の浅井夫妻はどんなセンスをお持ちかな?と思い手頃な半紙を1枚拾い上げて。
「……待って、これ、字?
続けてるとかそういう以前に、なんというか……」
『なかなかに悪筆な殿方だな』
「……うん。かなりね」
そこにあった文字は読解不能なほど、汚かった。
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さしみ(プロフ) - 初コメ失礼します!長らく更新させてないようですがとても面白かったです。いつか更新されるようならまた読みに来たいです。更新されるようなら無理せず頑張ってください。 (2020年12月4日 13時) (レス) id: 52bb9638d4 (このIDを非表示/違反報告)
朔夜(プロフ) - 御津さん» お返事が遅くなりすみません!御津さん初めまして、ご感想とリクエスト、ありがとうございます。そろそろ1巻をキリよく終わらせるのに誰か居ないかなぁ…と迷っていたところでした是非瀬戸内にはトリを飾ってもらおうと思います!今後も完結までよろしくお願いします! (2020年2月3日 18時) (レス) id: 959b48d95f (このIDを非表示/違反報告)
御津(プロフ) - すっごく面白いです!よろしければいつか瀬戸内(毛利と長曾我)も宜しくお願いします。更新お待ちしてます (2019年11月15日 17時) (レス) id: 672fceb52b (このIDを非表示/違反報告)
朔夜(プロフ) - 旅人さん» 旅人さん初めまして、温かいお言葉ありがとうございます!お市様は私が薙刀時代しか詳しく知らないのもあって薙刀にしました笑今後とも頑張りますのでよろしくお願いします!(また、他に誰か呼んだら面白げな方とかいればお気軽にお教え下さい!) (2019年7月17日 7時) (レス) id: 959b48d95f (このIDを非表示/違反報告)
旅人(プロフ) - コメ失礼します!主人公の周りが賑やかでとっても面白くて、あとその、お市様の薙刀時代(?)好きなのでめちゃんこ嬉しかったです…んんもう大好きです!これからも密かに応援させていただきます!無理のないよう、更新頑張ってください! (2019年7月16日 20時) (レス) id: e903332221 (このIDを非表示/違反報告)
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