異 時 代 交 流【戦バサ逆トリ】

十六　混沌 ページ16

*


「ちょっと！ 大丈夫ですか!?」

こういう時にあまり揺すらない方がいい、と救急隊志望だった同じ高校の先輩から言われたのを思い出して彼の頬を優しく叩く。

すると目の焦点がゆっくり私へ合わせられるので、まだどうにかなるだろう。
そのまましばし視線を交差させたあと、彼は私に体重をかけながら体を起こしゆっくりと自分の兜を取った。

「長政さま」

「構わん、市。此奴は大丈夫だ」

私と視線を絡ませただけで何が分かったのか、何が大丈夫なのかはよく分からないが、彼の言葉を聞いて、薙刀から手が離された。

「しかしまずはお前からだろう、女。

なんだその破廉恥な佇まいは！ 悪そのもの！ 着替えてこい!!」

すぅ、と息を吸ってから発された大声。
嘘でしょさっきまでめっちゃしんどそうだったのに、よくもまぁそんなに叫べるもんだ。
もうこれ手当てしなくても大丈夫じゃない？

「いやそんな、あなた死にかけてるの分かってます？ 私の身なりなんて言ってる場合じゃ……」

「えぇい喧しい！
いいから着替えろと言っている!!
そんなに気がかりなら市へ指示を出せばいい」

「……どうせ市なんて………ごめんなさい………」

「市！ めそめそするな!!
ほら早く着替えてこい!!」

何だこの状況は……
さっきまで私を警戒していた2人はどこへ行ったんだ。頼むから私の目の前でイチャイチャしないでくれ。
まぁ着替えてこないとそれこそ殺されそうなので大人しく着替えよう。

「じゃあ、着替えてきますね。
とりあえず止血剤と包帯持ってくるんで、そちらはお願いしていいですか？」

「市に……任せていいとは思えないけど……長政さまのため……頑張るわ…………」

……お願いしてもいいってことだろう。
一々真に受けられないのでもう勝手に解釈することにした。

リビングの方から救急箱の中に入った止血剤と包帯とを持ってきていちさん？ に渡す。
その間に私は2階へ上って着替え。
うーん、でも今着替えてすぐお風呂入るのも面倒だなぁ。もうあとでいいか。あとは2人も後で風呂に入ってもらうし、着物もいるかなぁ。といいつつ女物は浴衣しかないはずだけど。
男物は鎧に合わせて赤っぽい色がいいだろう。
これも勿論元彼のもので。今度とんぼ祭りに行こう、と買われたものだ。まぁ、実際に着ていくことはなかった訳だけど。
残念ながらピンクの浴衣なんて持ってないし、その時彼に合わせて買ったもので許してもらおう。

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