二 命なれば ページ2
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とりあえず兜を脱ぐように勧めると、また一瞬だけ警戒をしてから直ぐに諦めたように脱いだ。
そこで素朴な疑問。
「斬らないんですか? 私のこと」
「……女を殺せとは、命じられていないがゆえに」
「私があなたを殺すかもしれないのに?」
私の言葉にこちらをちらりと見やったが、すぐに視線は足元に戻され、返事はなかった。
まぁいい、こんな廊下で話し合う趣味はない。
「とりあえず、部屋まで行きましょう」
再度近付いて腕を取るも、今度は警戒する素振りさえ見せられなかった。
何があったのかは分からないが、彼が亡霊でもない以上、考えられないが生きている、という結論にしか行きつけない。
となると、飛ばされた? ここに?
そんな非科学的な、と理系の私は思ったがそもそも私が視えていることすらも説明がつかないので、もう考えることはやめにした。
やっぱり、こういう人はリビングより和室の方がいいのか? と思い、和室に案内する。しかし結局電気を点けた途端、握った彼の腕が大きく跳ねたので意味は成さなかったよう。
でもやっぱり電気をしらないってことは……そういう時代の人……だよ、ね……?
今彼が私を殺す気がないのが唯一の救いだが、ハッキリ言ってその大きな薙刀を振り回されればひとたまりもないので怖いことに変わりはない。
なんでだろう、落ち武者の霊とかは全く怖くなかったのに、生きてるだけで怖い。
だって、さっきは電気を点けていたとはいえ廊下なので暗かったのだろう。今見るとその顔も兜も薙刀も、濡れているだけでなく血液が付着している。
うーん、まぁ確かに血塗られた、という言い方もあるが………
「じゃあ、失礼しますね」
とりあえず座るように促すと素直に従ってくれたので、髪を拭くために後ろに回る。
流石に背中を取られるのは少し不安なのか、少し後ろを気にする素振りが見られた。
しかし私はそういうことをする気は毛頭ないので、構わず私の頭を吹いていたタオルを優しく乗っけてワシワシと撫ぜる。
兜を被っていたおかげか、そこまで髪が湿っていなかったのが救いだろう。いや、逆に上からものを被ってたにも関わらず濡れてるってどういう状況だろうか。
走ったのか、もしかしたら寝転がったのかな、そしたら多方向から水がかかるし。
やっぱりこの時代の人って、走る時。
「馬なんですかね?」
あっ思わず声に……
「……貴方は私を馬と言うか。馬鹿な男だと」
「あっ、すみません誤解です!」
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さしみ(プロフ) - 初コメ失礼します!長らく更新させてないようですがとても面白かったです。いつか更新されるようならまた読みに来たいです。更新されるようなら無理せず頑張ってください。 (2020年12月4日 13時) (レス) id: 52bb9638d4 (このIDを非表示/違反報告)
朔夜(プロフ) - 御津さん» お返事が遅くなりすみません!御津さん初めまして、ご感想とリクエスト、ありがとうございます。そろそろ1巻をキリよく終わらせるのに誰か居ないかなぁ…と迷っていたところでした是非瀬戸内にはトリを飾ってもらおうと思います!今後も完結までよろしくお願いします! (2020年2月3日 18時) (レス) id: 959b48d95f (このIDを非表示/違反報告)
御津(プロフ) - すっごく面白いです!よろしければいつか瀬戸内(毛利と長曾我)も宜しくお願いします。更新お待ちしてます (2019年11月15日 17時) (レス) id: 672fceb52b (このIDを非表示/違反報告)
朔夜(プロフ) - 旅人さん» 旅人さん初めまして、温かいお言葉ありがとうございます!お市様は私が薙刀時代しか詳しく知らないのもあって薙刀にしました笑今後とも頑張りますのでよろしくお願いします!(また、他に誰か呼んだら面白げな方とかいればお気軽にお教え下さい!) (2019年7月17日 7時) (レス) id: 959b48d95f (このIDを非表示/違反報告)
旅人(プロフ) - コメ失礼します!主人公の周りが賑やかでとっても面白くて、あとその、お市様の薙刀時代(?)好きなのでめちゃんこ嬉しかったです…んんもう大好きです!これからも密かに応援させていただきます!無理のないよう、更新頑張ってください! (2019年7月16日 20時) (レス) id: e903332221 (このIDを非表示/違反報告)
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