【銀魂】己の行く道 途切れた糸【土方十四郎】

孤独には　土方side ページ40

…Aのその、俺と比べると一回りも小さなその手は、A自身が、無力だと嫌った紅の舞姫は、Aを一人にした訳ではない。その過去は確かに、今でもソイツを苦しめているのかもしれない。その後悔の鎖は、今でもソイツの足に絡みついてひきずろうとするのかもしれない。それでも、ひとつでも、一欠片でも残ったものがあるなら、それはAを一人にはさせない。

……Aを、孤独にはさせない。


『俺が、Aにしてやりたいと思うこと』。


それは、


「…土方さん、」

土「…なんだ」


…俺の言葉に少しだけ目を丸くさせていたAは、俺の名前を呼びながらに、俺の目をじっと見つめた。それを見つめ返せば、ソイツはその目をゆっくりと細めた。優しげに、口元を少しだけ綻ばせて。


「……貴方は、本当に変わらないんですね」

土「…何が」

「……私が紅の舞姫でも、元鬼兵隊でも」


……鬼兵隊。そう口にしたAの声は、何故か震えているように聞こえた。何かに怯えているような、今にも泣き声に変わってしまいそうな弱々しい声だった。その言葉に俺は真っ直ぐにAを見据え、「どういう意味だ」と問い掛ける。


「…ごめんなさい。ちょっとだけ、疑ってました。土方さんのことも、みんなのことも」

土「…」


…気まずそうに、視線を月に向けたAの言葉を、俺は黙って聞いている。


「…もしかしたら、私が元鬼兵隊だって知れたら、流石に皆、私のことを仲間として認識出来なくなるんじゃないかって」


私はもう、ここには、居られないかもって、と。
真選組じゃ、居られなくなるんじゃないかって、と。


土「…んなこと、あるはずねェだろ」


不安に揺れるその目が、俺を見る。
そんなことはないのだと、俺は否定しなければならない。それだけは、否定しなければならないのだ。


土「…お前が何者だろうと、昔何やってようと、変わらねぇよ」


…そんな簡単に、手のひら返して堪るもんか。


土「…お前は真選組副長補佐だ。…ちゃんと、俺達の仲間だ」

「…ッ…」


…泣いてしまうか、と思った。Aのその目が、潤んでキラリと光ったような気がした。が、Aは口を固く引き結んで、何かを堪えるように顔をうつ向かせた。そして。


「…本当ですね」


…そうして、口元に弧を描いて、微笑んだ。


「……私は、一人じゃなかった」

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