緞帳・引幕，あるいはオペラカーテンの裏側で シリーズ

（↑おまけ後編） ページ17

(※引き続き，ほの暗いです)



　ＫＺの集合を告げる前から，彼女は何かに傷ついている。

　砂原のことかと思って話題を振っても，その影は姿を見せなかった。

　俺は俺で砂原の復学の件に意識を割いていたし，アーヤも砂原のことは気にしていたから流されてしまったけど，彼女の抱える問題を解決してあげられなかったのは事実だった。

　かつて俺の傷を洗い流してくれたアーヤ。

　彼女がいつか傷ついたときは，再び立ち上がれるようになるまで何からも誰からも守ろうと，そう決めているのに。

　こんなにも，俺は無力だった。

　だから。



　「クラスメイトだからって，俺が何でもかんでも知ってるわけないでしょ。」



　俺の心からの言葉を受けて，黒木は様々な感情をあふれさせた。

　疑心，混乱，そして心配。最後のに関しては，アーヤはもちろん，きっと俺に対しても。

　つい，自嘲的な笑みが出る。今の表情は黒木にどう解釈されるだろう。

　とにもかくにも，本心の一部をさらけ出したんだから，これ以上黒木から追及されることはない。

　俺が砂原の問題に対してアーヤにどう働きかけているか，それによって何を得るかを，探ることはもうできない。

　「そうか……悪かった。」

　案の定，黒木はそれだけ言うと，あっさりと踵を返した。

　――勝った。

　その場にうずくまりたい気持ちを，何とか追い払う。

　蜘蛛の巣から逃れるためには色々な方法があるけど，そのうちの１つに「他の魅力ある餌を差し出す」というのがある。

　この場面では，アーヤの悩みについての情報を，砂原の情報とすり替えた。

　この無力感を認めるのはかなりの痛みを伴ったけど，それくらいしないと俺が求めているものは手に入りそうになかったから。

　俺は，アーヤの心の友になりたい。

　アーヤに何かあったら，一番に頼られる存在になりたい。

　そうすれば，俺の人生を切り開いてくれた彼女へ力を貸せる。きっと役に立ってみせるから。



　――黒木，お前が就いてる《相談相手》のポジション，俺に頂戴？

「ほんかくはろうぃん〜」より，とある場面の七鬼君→←（↑おまけ前編）

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