看板娘３８ ページ39
｢…ただいま戻りました｣
浦原商店へ帰ってきて、一応裏口からそっと入る。扉を開けたらすぐに浦原さんがいて、いつもの扇子を持って笑う。
｢おっかえりなさい、Aサン。お疲れ様ッス｣
｢朽木さん、こちらに来てないんですか｣
｢店に来てはないッスねぇ。着信は鬼のように来てるんスけど♡見ます？｣
そう言ってケータイを開いた浦原さん。近づいて画面を覗くと本当に夥しい数の着信履歴。この人これ全部ガン無視してるのか…
｢…悪い人ですね｣
｢あら、今日は一段とクールッスね。ご機嫌ナナメッスか？｣
普段の態度を装おうとしてたら、少々冷たくなりすぎたようだ。そんな事ないですよ、と返すも浦原さんは納得しない。曖昧なのが嫌なのは科学者の性なんだろうか。
｢……そッスか？そうは見えませんが。アタシがなにか怒らせちゃいました？それとも、なにか気になることでもありました？｣
じ、と私と目を合わせようと顔を覗き込んでくる浦原さん。今日学校で貴方を好きかと聞かれて動揺したんです、なんて言えるはずもない。私は浦原さんをあくまで尊敬してるんだ、好きとかそんな感情じゃない。心が乱れるのも、私にまともな恋愛経験がないからだ。
｢…なんでもないんです。浦原さんは、やっぱり尊敬できる御方だと思っただけですよ｣
自分の気持ちを整理して、なんだか落ち着く。にこ、と微笑んで嘘もなく言うと、浦原さんは目を丸くした。
｢…そりゃあ光栄だ。何があったかは聞きませんけど、Aサンがそんなこと言ってくれるなら嬉しいッス｣
もし悩みとかなら言ってくださいよ、と私の頭を一撫でして部屋を出る浦原さん。うん、大丈夫だ。私も、当然ながら浦原さんもいつも通り。
｢……よしっ！｣
切り替えて店番でもしよう、と思い立ち、着替えるために自室へ向かった。
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作者名：名無し | 作成日時：2022年2月21日 5時
