看板娘28 ページ29
「…私はそれが、不満です」
「……Aサン」
「なんですか。言い訳なら聞きたく……ッ!?」
ぽすり、と、彼が私を引き寄せて、自身の胸に閉じ込める。浦原さんの匂いが鼻を掠めて、こんなにもどかしくて悔しい筈なのに、安心してしまう自分が恨めしい。
「その通りッスよ。ボクはアナタに、せっかく出来た友達を自分で斬るなんてことはさせたくないんス。ただでさえ、今アナタがこんなとこに居るのは、ボクのせいなんスから」
「違うッ!!」
ガバッと浦原さんの胸から離れて、彼に叫ぶ。
「違う、ちがいます。あれは、貴方のせいじゃ……」
「Aサン」
浦原さんは真っ直ぐ私を見る。私が何にも言えなくなる、その目。そんな事すらきっとこの人は解ってる。狡い人だ、本当に。
「……ボクはね、状況次第では、貴方の予想よりも更に酷いことをしようとしてます。でもそれは、実を言うと黒崎サン次第です。彼に素質があるならば、或いは……」
「浦原さん…」
「とにかく、ボクは貴女を軽んじたりなんてしてません。貴女の覚悟を、舐めてなんていません。…言ったでしょう」
"守らせてくださいよ"って。
浦原さんはそう言って、私を引き寄せるために背中にまわしたその手に力を込める。その所為でまた、私と浦原さんの距離はゼロに等しくなった。
……あぁもう、莫迦者だ。
あなたも、わたしも。
「……狡い人です、浦原さんは」
こんなに大きい手のひらなのに、身体一つを包むことも、包まれていることも儘ならないなんて。
「ボクのこと、嫌いになりました?」
包んだところで、離れたところで、護れる甲斐性もないくせに。
「……ほら、やっぱり」
ずるいひと。
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作者名:名無し | 作成日時:2022年2月21日 5時