サファイアは素直だ ページ30
「一目見た時、俺は彼女が自分の運命の相手だと信じて疑わなかった。彼女こそが、俺の小指に結ばれた赤い糸の相手なんだと。
……だが、Aはお前を選んだ。
同じ顔だって言うのに……おかしな話だ」
カラ松は何処か自虐的な乾いた笑みを浮かべると
不意におそ松の方を見遣り、眉を下げた。
カラ松にとってAは彼の人生の中で本気で恋をした女性であった。
普段からナンパのように会う女性を手当り次第に口説いていたが、Aだけは心の底から好意を寄せていたからこそ、歯が浮くようなセリフはあまり言わなかったし、気安く触れようなどとも思わなかった。
大切に大切に、まるで美しいガラス細工に触れ合うかのように。
カラ松は彼女が悲しまないように、怒らないように、機嫌を損ねないように、言葉の一つ一つでさえも細心の注意を払いながら彼女と過ごして来た。
勿論、危険から彼女を守り、彼女に妙な虫が近付かないように見守り、彼女が少しでも困っていれば声を掛けてやり。
彼女の役に立つならばと、彼女の為ならなんでもやってみせた。
だからこそカラ松は悔しいのだ。
彼女が自分ではなく、おそ松を選ぶ事を。
「…相変わらずイッタいよねぇ、カラ松は。しかも今回は重いし」
「俺は本気だ、おそ松」
「わかってるって。別に馬鹿にしてるとかそういうのじゃない。
ただ……自分の気持ちに素直になれていいな、って」
おそ松の返答にカラ松は目を瞬かせながら首を傾げた。
対しておそ松はポケットからタバコを取り出すと、窓を開けて器用に箱からタバコを1本口で引き出した。
片手でライターを操作してタバコに火を付けると、おそ松はその煙を肺いっぱいに吸い込んで、深い溜息と共に吐き出した。
「俺さぁ、こう見えても昔の事結構引き摺ってんだよねー……だから、女って生き物が未だに信じらんねーし、こえーの。
でもAちゃんはさ、すっごくいい子で物分り良くって、オマケに可愛くてさ。
アイツだけでも信じてあげたいって思ってるんだけどさ」
そこまで話して、おそ松は口を閉ざした。
カラ松はおそ松の身に起きたあの出来事を思い出し、目を見開くと「まさか」と思わず続きを口にした。
「……お前、Aの事が信じられないのか?」
「……」
長い沈黙が、車内に重く漂う。
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柊(プロフ) - 朝から暇潰しにと軽い気持ちで読み進めてたんですが、書き方や設定の作り込みにすごく惹き込まれて一気に最終章まで読み進めてしまいました……特に主人公対兄松それぞれのやり取りにはすごく圧巻したというか、兎にも角にも笑いあり感動ありですごく面白かったです;; (2022年4月30日 0時) (レス) @page50 id: a82882ac10 (このIDを非表示/違反報告)
*IJu*(プロフ) - トマトの王様さん» コメントありがとうございます!終わってしまいました…!楽しんで頂けたようで良かったです^^ここまで読んで下さりありがとうございました〜!! (2019年8月1日 1時) (レス) id: 3241b35fe8 (このIDを非表示/違反報告)
トマトの王様 - うわあぁぁぁぁぁ!遂に終わってしまった…!( ;∀;)読んでてとても楽しかったです。お疲れ様でした! (2019年7月31日 14時) (レス) id: 5390b171c6 (このIDを非表示/違反報告)
*IJu*(プロフ) - arumo?さん» コメントありがとうございます!お疲れ様ですっ( ˇωˇ ) (2018年10月10日 0時) (レス) id: 3241b35fe8 (このIDを非表示/違反報告)
arumo?(プロフ) - お疲れ様です! (2018年9月29日 11時) (レス) id: ee4365cb85 (このIDを非表示/違反報告)
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