向夏の候 ページ5
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梅雨が来た後、すぐ夏日になる。
一昨日は大雨だったのに今日は嫌になるほどの晴天。確実に夏へと向かっている。いや、すでに夏だろうと思うほどこの月は過ごしにくい。
私の隣の家に住む家族の飼い猫が脱走したらしいが日々樹渉が連れてきた。首を傾げるしかないが本当に彼は猫を連れて私の家のインターホンを押した。
「 こんにちはAさん 」
扉を開ければそんな声と、ニャーという声。猫は日々樹渉の腕で幸せそうな顔を浮かべている。話を聞くと、近くの通りを歩いていたら首輪をした猫を見つけ、猫探してます の張り紙の写真と一致したらしく住所を辿りここまで来たそうだ。
「 私の隣の家ですよ 」
「 窓からAさんの青が見えたのでつい 」
悪びれる様子もなく、いつものように笑いながら彼は私の青、こと髪の毛先に一瞬触れた。
「 色、抜けてきましたね 」
「 次は日々樹渉と同じ色にしようと思ってるの 」
驚いた顔を一瞬見せるものだから、冗談ですと訂正すれば日々樹渉は珍しく吹き出すように笑った。
「 そんなあなたを想像したら、思わず笑えます 」
「 似合わないって言いたいんだろ？ああん？ 」
私のわけも分からないノリに日々樹渉はまた笑って、愉快ですねと呟いた。
いつまでもこのままでいれればいいのに、そう思うと猫がニャーと鳴いた。私の目を見てニャーと、また鳴く。
玄関先での彼との会話は時の流れがあっという間でムシムシと湿っぽい暑さの夕方が訪れた。この子をお返ししようとしましょう、と日々樹渉は言いながら隣の家へと足を進めるから。急いでサンダルに足を滑り込ませて背中を追った。
ピンポンとインターホンを押す彼は、やはり場違いだ。彼は豪邸が似合う、なんだか中世の貴族が現代の住宅地にトリップしてしまったような。彼は常人離れしているとつくづく思うのだ。
玄関の扉が開くとお母さんが目を見開いて中に向かって声をかければ幼稚園児くらいの兄妹が走って現れ日々樹渉の抱く猫を見て泣いていた。彼は、紳士のように微笑んでお兄ちゃんに猫を預けた。
日々樹渉は突然、袖から薔薇や鳩を取り出してマジックを始めたのでびっくりして私は日々樹渉の背に隠れた。心臓に悪いぞ、鳩は。
しかし、聞こえてきたのは嬉し泣き声ではなくて笑い声と感嘆であった。日々樹渉は、とても素敵な人だ。
そんなあなたに恋してしまったのは紛れもなく事実なのだと、彼の背中に呟いた。
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明蛍 - 更新待ってます 頑張ってね (2019年2月18日 17時) (
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作者名：白城あろ
| 作者ホームページ：
作成日時：2018年5月26日 17時
