6.チケット ページ8
12/25 Mary Christmas
「こはくん，今日も会いましたね♪」
「げ，坊」
「げ，とは何ですか！ちょっ，待ちなさい！」
ダブルフェイスとして活動するようになってから，ニューディメンションの中を歩き回ることも増えたのだが，それと同時に増えたことがもう一つ。それは，書類片手にニューディメンションの階層を駆け回っている忙しそうな我が主，朱桜司に出くわす事であった。
「やじゃ！ぬしにつかまったら碌な目に会わん！」
「くぁぁ！！」
このまま逃げるこはくを追いかけても，今の司が追い付けるはずがない。しかし，司には奥の手があった。
「桜河！！止まりなさい」
結局，血には逆らえない。こはくは，ぴたりと動きを止めると，ゆっくりと司の方を向いた。
「坊，それは朱桜としてか……？」
「こうでもしないと，貴方は止まってくれない」
司の真っ直ぐな目にこはくは怯み，息を零した。ここまでした話やったら，こっちも真面目に聞かなければ…。なんせ，"朱桜家当主様"からの話なのだから
「なんや，聞いたるからはよぉ話してや」
「まあまあ。この話を聞けば，こはくんも喜ぶでしょう♪」
そういって，司はガサゴソと抱えていた書類の中からある一枚の紙を取り出した。丁寧に四つ折りにされた大きな紙を広げる為に書類を床に置く。そこまでした広げるこの大きな紙にはいったい何が書いてあるのだろう，とこはくは腕を組みながら静かに司の動作を見ていた。
「これです，Aが所属しているsnowfallのクリスマスライブ。このライブのチケットを取れたので，行きませんか？というお誘いです。ほら，嬉しいでしょう？」
「何やねん，その言い方。まあ，嬉しいけど……」
司はポスターを両手で広げ，ESビル内でも最近よく見かけていたsnowfallのクリスマスライブの宣伝ポスターを見せた。これまで座敷牢にいた自分は，ライブなどネットで探して無料で公開されている宣伝のような断片部分しか見ることしか出来なかった。だからこそ，このポスターをビルや街，テレビの宣伝で見るたびに「見てみたい」と思っていた。しかし結局，チケットを買う事はしなかった。それは，忙しかったからか，はたまた別に何かがあってか……。
こはくは，司の発言に照れたのか頬を掻いて横を向いた。その様子に司は満足げに微笑むと，こはくの手を取る。
「二人分当たったんです。二人で見に行きましょう，Aを」
「………ええよ。いこか」
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作者名：桃 | 作成日時：2021年12月22日 13時
