【鬼灯の冷徹】毬栗胡瓜の憂鬱。

壱 ページ1

「なぁなぁ唐瓜ぃ」

獄卒の仕事をこなしながら、茄子は隣に座っている唐瓜に声を掛けた。
唐瓜はぶっきらぼうな口調で答える。

「ん?なんだよ」

茄子は頬杖をついていた手を離すと、上の空で聞いた。

「Aちゃん元気〜?」

茄子の言葉に唐瓜は筆を置く。
そして呆れた様に溜め息を吐いた。

「Aは元気だけど、今はそんなこと聞く時間じゃないだろ。ほら、筆持って」

「うぅ〜……」

唐瓜に急かされ、茄子は渋々と言った様子で筆を手にした。
そして嫌々仕事を再開する。

(本当、大丈夫かこいつ……)

唐瓜はもう一度溜め息を吐き、筆を持った。
そのまま二人はほぼ無言で仕事を続けていた。

と。

「あの、唐瓜さん」

ふと聞こえた声に、唐瓜はパッと顔を上げた。
その声の正体は地獄の鬼神、鬼灯だった。

「鬼灯様?」

茄子も不思議そうに声を上げる。
すると、鬼灯は己の足元を指さし口を開いた。
唐瓜はそれと同時に目を見開く。

「もしかしてこの娘、唐瓜さんの妹では?」

「え、ちょっ……A??!!」

噂をすれば何とやらという奴は、あながち嘘ではないのかも知れない。
だってそう、そこには。

『お兄』

そう言って唐瓜に駆け寄る、Aの姿があったのだから。

弐→

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