20 不審 ページ20
『ただいまー』
「お邪魔します」
温泉から家に帰り、斗真と一緒にリビングへ足を踏み入れると、思ってもみない人がそこにいた。
『…え…理人さん…どうして…』
「お前に逢うために待ってたんだ。ほら、忘れ物だ…」
手のひらに乗せられたのは、あの日、理人さんにもう一度逢いたくて、わざと助手席に落としてきたアンクレット。
だけど、どうして今日なの…?
そんな自分勝手な考えを巡らせていると、スッと私の横を通りすぎる理人さんが、
「じゃあな。もう落とすなよ」
それだけ言い残し、程なくして玄関のドアが閉まる音が聴こえた。
「あゆな、今の人って…」
「…あ…えっと…あの人は…」
動揺しすぎて、言い訳なんて思いつかない。
強張った顔の私を見て、斗真が不安そうな表情を浮かべていた。
そして、
「あー…俺、車で待ってるから、準備したら出て来て」
何か取り繕うように言い放ち、斗真も出ていった。
忘れ物…だなんて理人さんが言うから…。
斗真、何か勘づいたかな…絶対、不審に思ってるよね。
自分の部屋で着替えを準備していると、スマホが鳴った。
蓮安藤理人さんには会えたか?
もうっ!蓮兄!!
昨日のメッセージは理人さんのためだったんだ。
あゆな会えたけど…どうして理人さんを家に入れたの!?斗真に誤解されるじゃない!!
蓮あー悪い!昔からの知り合いなんだ。断れなくてさ。ほんとゴメン!!
『え!?知り合い!?』
あゆな理人さんを知ってるの!?
蓮遠い昔に会ったことがあるんだ。その話はまた今度な。これから訓練だからさ。あーそれと、ちゃんと避妊しろよ!
『なっ!何言ってるの!?恥ずかしいこと言わないでよ!蓮兄のバカ!!』
つい、抗議の声を上げ、突き飛ばして逃げるスタンプを送った。
昨夜の行為が頭をよぎり、頬が熱くなる。
昨夜の斗真は…いつになく余裕が無くて、その行為も少し乱暴で激しかった。
ほら、浴衣とか着てたし、非日常で気持ちが高ぶったとか…あるでしょ!?
誰に言う訳でもない焦りを、心の中で叫んだ。
そして…
『蓮兄、理人さんと知り合いだったんだ…』
小さく呟いた。
さっき、2日ぶりにきちんと見た理人さんの顔を思い浮かべる。
たったそれだけで、私の心臓はうるさく弾み始めた。
散らかった思考に深呼吸をひとつして、着替えやお泊まりセットを整えたバッグを抱え、理人さんの気配を振り切るように、斗真の待つ車まで足早に向かった。
*
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作者名:夢梨 | 作成日時:2018年11月4日 15時