*** ページ29
*
「このまま黙っていれば、きっと殺されるよね……」
千鶴が呟いた。
彼女の視線は、自らの
「大将も千鶴も女だからな……出来れば逃がしてやりたいが、これじゃあな……」
薬研がぼやいた。
「説得は難しいでしょうし……」
私の呟きを最後に、暫く沈黙が落ちた。
「あ、でもそう云えば……」
「ん? 何か思いついたか?」
千鶴が思い出したように口を開いた。
「あの人たち、男らしく覚悟しろって云ってたよね。ってことは、私とAが男だと思ってるんだよね」
「だから、実は女ですと云えば、少しはましだろう……と、そういうことですか?」
「うん……」
「薬研をどうするつもりです? 彼も女だと云うのですか?」
「そいつぁ無理だろうな。俺は昨夜、声を聴かれてる」
「そっか……そうだよね……」
また沈黙が落ちた。
薬研が口を開いたのは、それからまた暫く経ってからだった。
「ま、云った方が、少なくともあんたらのためにはいいんじゃねえか?」
「そうかな……」
「もしかしたら、京の人だと思われているかもしれませんね。江戸から来たと云えば、少しは……」
私も云った。
「取り敢えず、正直に話してみようや」
ほれ、と背を叩かれた千鶴は、思い切り息を吸い込み、声を上げた。
「すみません! 誰かいませんか!」
私は思わず、耳を塞いでしまった。
「どっから出るんですか、そんな大声……」
それほど、千鶴の声はよく響く大声だった。
少しして襖が開かれ、齋藤さんや"新八っつぁん"らが顔を出した。
「大胆だなあ、お前さんたち。捕らわれの身分で俺らを呼びつけるなんてよ」
"新八っつぁん"が呆れたように云った。
「で、そっちから声をかけてくるなんざ、そろそろ腹も決まったのか?」
「そうではなくて……」
"新八っつぁん"の言葉を千鶴が否定すると、薬研が口を開いた。
「ちょっと、俺たちの話を聞いてほしいんだ」
「恐らく、あんたらの事情は汲めないだろう。それで良ければ話すといい」
斎藤さんが云ってくれた。
「お前らの運のなさには同情する。ま、成仏してくれな」
"左之さん"が云う。
……成仏とはまた、薬研も難題を突き付けられたものだ。
「ほら、男なら諦めが肝心だろ?」
藤堂さんまで……。
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Chris(プロフ) - 魔導士カリナさん» コメントありがとうございます! 文体好きって言って貰えてすごく嬉しいです。応援……?! もうありがとうございますの一言に尽きます……。 (2017年4月3日 7時) (レス) id: 2c836ec423 (このIDを非表示/違反報告)
魔導士カリナ(プロフ) - Chrisさん!イベント参加、ありがとうございました!私が言って良いのか分かりませんが...私、Chrisさんの文体とか凄く好きなんです。もしよろしければ、これからも作品を応援させていただいて宜しいでしょうか...? (2017年4月2日 23時) (レス) id: 0cf79671fa (このIDを非表示/違反報告)
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