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「わ、私……誰にも云いません!」
千鶴が震える声で主張するけれど、それを信じる者はこの場にはいないだろう。
私だって、信じられぬと云って斬るだろう。
「偶然、浪士に絡まれていたという君が、私たちに敵対する者とまでは云いませんが……」
山南さんが口を開いた。
「君に云うつもりがなくとも、相手の誘導尋問に乗せられる可能性がある」
優しい声だけれど、確かにそれが現実だ。
しかも千鶴は、相当のお人好しときた。
「話さないと云うのは簡単だが、この者たちが新撰組に義理立てする理由もない」
「約束を破らない保障なんてないですし、やっぱり解放するのは難しいですよねえ。ほら、殺しちゃいましょうよ。口封じするなら、それが一番じゃないですか」
齋藤さんと沖田さんが云う。
……まずい。
このままでは、薬研が人間でないことがバレる。
千鶴が「そんな……!」と云うけれど、私は眼を閉じたまま考えた。
この状況を、どう切り抜けるか。
「……総司、物騒なことを云うな。お上の民を無闇に殺して何とする」
「そんな顔しないで下さいよ。今のは、ただの冗談ですから」
近藤さんの言葉に、沖田さんはちょっと笑って答えた。
「……あんたは冗談に聞こえる冗談を云え」
全くだ。
沖田さんは、齋藤さんの言葉にふふっと笑っただけだった。
きっと、本気だったのだろう。
「しかし、何とかならんのかね。……まだこんな子供だろう?」
井上さんが云う。
「私も何とかしてあげたいとは思いますが、うっかり漏らされでもしたら一大事です」
山南さんが云った。
もっともな話だ。
「さて――。私は副長の御意見を伺いたいのですが。如何ですか、土方副長?」
「俺たちは昨晩、士道に背いた隊士を粛正した。……こいつらは、その現場に居合わせた」
「――それだけだ、と仰りたいんですか?」
「実際、こいつらの認識なんざ、その程度のもんだとは思うんだが……」
あれの正体を知っている薬研と今剣、私は違うけれど、少なくとも千鶴はそのはずだ。
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Chris(プロフ) - 魔導士カリナさん» コメントありがとうございます! 文体好きって言って貰えてすごく嬉しいです。応援……?! もうありがとうございますの一言に尽きます……。 (2017年4月3日 7時) (レス) id: 2c836ec423 (このIDを非表示/違反報告)
魔導士カリナ(プロフ) - Chrisさん!イベント参加、ありがとうございました!私が言って良いのか分かりませんが...私、Chrisさんの文体とか凄く好きなんです。もしよろしければ、これからも作品を応援させていただいて宜しいでしょうか...? (2017年4月2日 23時) (レス) id: 0cf79671fa (このIDを非表示/違反報告)
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