検索窓
今日:14 hit、昨日:2 hit、合計:201,060 hit

*** ページ20

*

 一くんとやらは、衝撃を受けたように眼を見開いていた。
 土方さんは、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 「わ、私もおかしいかなとは思いました! でも、この人がお礼を云えと――」

 遂に薬研が吹き出した。

 ――あっははは……こいつは驚きだな!

 鶴丸も爆笑している。

 ふと見ると、云った当人までもが腹を抱えて笑っていた。

 夜の暗い路地裏に、笑い声が響いた。

 「あ。……ごめんごめん。そうだよね、僕が云ったんだもんね」

 ひとしきり笑った彼は、少しだけ姿勢を正して千鶴に向き直った。

 「どう致しまして。僕は沖田(おきた)総司(そうじ)と云います。礼儀正しい子は嫌いじゃないよ?」

 「ご丁寧に、どうも……」

 千鶴がもう一度頭を下げた。
 私はしゃがんだまま、微動だにせずにいた。

 「君たちを助けてくれたのが斎藤(さいとう)(はじめ)くん。それで、こっちの偉そうなのが――」

 「……わざわざ紹介してんじゃねえよ」

 遂に土方さんが遮った。

 「副長。お気持ちは分かりますが、まず移動を」

 斎藤さんが、再び移動を促した。

 沖田さんは千鶴の手首をつかむと、そのままの笑顔で歩き始める。

 「あっ、A……」

 千鶴が慌てたように、私に手を伸べたが、届かなかった。
 土方さんが薬研を引っ張り、薬研が私を引っ張った。

 (おもむろ)に、血濡れの羽織を抱えた斎藤さんが口を開いた。

 「己のために最悪を想定しておけ。……さして良いようには転ばない」

 薬研がふっと笑った。
 彼の最悪は、死ではなく、『破壊』だから。

 ――堀川、どう思う?
 俺的には生きてくれると嬉しいんだけど。

 ふと、声がした。

 ――どうって……どうだろうね。
 兼さん、どう思う?

 ――オレに振るなって……。

 それきり、何も聞こえなかった。

 三日月、新しい出会いはありましたよ。
 物吉、貴方の幸運の力は、今宵の命を救ってくれました。

 白く輝く、狂い咲きの桜の花びらのような月明かりの下。
 江戸から来た二人の少女は、新たな人、そして新たな刀剣たちと出会ったのだった。

文久三年十二月 新撰組→←***



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.7/10 (50 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
114人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

Chris(プロフ) - 魔導士カリナさん» コメントありがとうございます! 文体好きって言って貰えてすごく嬉しいです。応援……?! もうありがとうございますの一言に尽きます……。 (2017年4月3日 7時) (レス) id: 2c836ec423 (このIDを非表示/違反報告)
魔導士カリナ(プロフ) - Chrisさん!イベント参加、ありがとうございました!私が言って良いのか分かりませんが...私、Chrisさんの文体とか凄く好きなんです。もしよろしければ、これからも作品を応援させていただいて宜しいでしょうか...? (2017年4月2日 23時) (レス) id: 0cf79671fa (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:Chris | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2017年3月27日 20時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。