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第拾陸幕 彼女の安穏 ページ17

瑠奈side

 鬼道と、喧嘩紛いのことをした。お互い怯え合って、傷つけ合って、酷い有様だった。

 事の発端は夏芽の挑発。これは、心配をかけて大事にしたボクが悪い。ヒートアップしたのは、挑発を続けた夏芽のせい。あんなに鬼道を怖がらせて。なにも、あそこまでやる必要はなかった筈だ。

 そうやって、人のせいみたいに考えてしまう自分が嫌になる。いや、実際これは夏芽のせいなんだけど。ボクにだって責任はあるはずで、それを全て夏芽に押し付けるのはおかしい事のはずであって。

「全く、瑠奈はマジメだなぁ。こんなん俺のせいにして怒ってりゃいいのに」

 それじゃあ他のみんなに示しがつかない。ボクはみんなのお手本になるべき最初の混ざり者で、でもその任は今ボクの次に来た心愛に渡ってしまっているから、ボクは本当にやることが無い。

「別に、気負うことは無いんだよ? 私達はあなたのこと大好きだから。わざわざ大変なことして、傷ついて欲しくは無いんだよ」

 それも、ダメ。ボクに出来ることは、ボクがやる。傷付いたって、大変だって、構わない。君たちにやらせる方が問題だ。

 璃亞は曖昧に笑う。泣いたような、寂しそうな、なんで笑っていると受け取れるのか分からない、不思議な笑顔。きっと、今のボクらがひとつだから。思考も感情もお互い筒抜けだから。

 何もかもをボクらが共有しているから。

 声が出ない。喉に何かが詰まったように、息が微かに通るだけ。なんでボクは泣いているんだろうか。わからない。

「かなしいの? いたいの? ……くるしいの?」

「えっ、なんか嫌なことあったか!? ごめんな。何が嫌だったか教えてくれるか?」

「わかんないか、そっか……あのね、瑠奈」

 やさしいやさしい声が聞こえる。ぽかぽかして、なんだかとっても幸せで、思考がまとまらなくなっていく。

「それを、他の人にも言えるといいな」

 どうやら、言葉がこぼれているらしい。蓋をしなきゃ、と思っても、バケツに穴があいたみたいに、まったく止まりやしない。

「あったかいかぁ。うれしいなあ、ありがとうね、瑠奈」

 髪を梳く手が優しくて、すっぽり腕の中に囲われるのが、あんまり心地良かったから、なんだかぼんやりと、頭のなかにモヤがかかっていくような、不思議な感覚に包まれて。

「いいこ、いいこ。寂しかったんだね。今度は、自分から教えてくれると嬉しいなぁ。ね、夏芽」

 あかいいろが、こっくりうなずいた。

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作者名:海道 凛 | 作成日時:2018年11月3日 19時

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