第拾漆幕 彼女の緩慢 ページ18
瑠奈side
「ねぇ」
「……」
「ねぇってば」
「……」
「なにか言いなよ」
目の前にいるのは、黒服のいかつい男の人達。両ジェミニストーム側の仮称宇宙人。両手両足を拘束されて、ボクはベンチに座らされている。
「迷惑な話だよねぇ、ボク達こんなに人数少ないのに。これじゃあ交代もできない」
反応無し。こちらの様子を伺いながら、試合を見るだけの黒服。拘束されてからは何もされてない。試合にボクが出ると都合の悪いことでもあるのか。正直気味が悪い。
「あ」
案外みんな、ついていけるようになったんだな。と、他人事みたいな感想。記憶が飛んでた頃は、あんまり皆と関わっていなかったし、関わりたくもなかった。だから、知らない。
知らないから、実感がない。
そのまま。そのまま。祈るように、すがるように。染岡がシュートまで持ち込んだボールは、敢え無く止められてしまった。
「……ボクの何が、君たちにそんなに都合が悪いの？」
黒服は答えない。ボクが試合に出ると都合が悪い。ボクが、ジェミニストームと接触すると都合が悪い、のか？ そうしたら、何だ。逆に、接触すると何が起きる。
それは、どうしてボクなんだ。円堂でも、鬼道でもなく、どうしてボクであるといけない。
ボクには家族が無い。まだ一部の記憶が無い。無いものだらけのボクより、あるものが多い方が都合が悪い筈だ。なら、彼等とボクの相違点はなんだ。
まだ取り戻せていない記憶にヒントがあるのだろうか。それとも、此処に来てからの短い時間の中に？
足りないものだらけで、あっさり捕まって、ただ見ていることしか出来ないこの身が恨めしい。
気付けばホイッスルがなり、後半戦が始まっていた。染岡が点を決める。みんなが集まって、喜び合う。
ちらりと視線を落とせば、相変わらず不思議な枷を付けられている手足。思考がぼやける。じわりと滲むようになって、まとまらない。
「ねぇ」
吹雪が点を決めた直後、試合終了のホイッスルが鳴った。
「君達ジェミニストームって、本当に宇宙人？」
ほんの少し、黒服が動いた。
「瑠奈！ もう大丈夫だぞ、戦いは終わったんだ！」
「うん……そうだね、そう。……良かった」
無理やり手足を動かせば、それは思ったよりずっと簡単に壊れた。なんでボクは試合中に壊さなかったんだろう。
「お前たちは……エイリア学園の本当の恐ろしさを知らないんだ」
次の瞬間、目の前が真っ暗になった。
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作者名：海道 凛 | 作成日時：2018年11月3日 19時
