第拾伍幕 彼の不信 ページ16
鬼道side
「あまり、瑠奈を追い詰めないで欲しいんだけどな」
「……お前は」
「初めまして、鬼道有人。俺はナツメ。まあ、よろしくやろうぜ?」
差し出された手をはたきおとす。受け入れられるか、こんな妙な女。そんな思いを込めて、女を睨みつける。
「そんなカッカするなよ、俺だって人間だし、初っ端から嫌われたら傷付くんだぞ?」
「……思ってもいないくせに、よく回る口だな」
「酷いな、」
小さな体躯でくるくる回り、女はぽつりと呟いた。
「ちゃんと思っていたさ」
ヒュ、と喉が鳴った。くらい、昏い、赤紫の瞳。ひどく冷たい瞳。過去を話す口。気味が悪い。
「まだそんなことをのたまうんだから、本当呆れちまうな。それと、」
女は、唇に人差し指を当てて、そして。
「俺達は、もうお前を諦めたよ」
息が詰まった。脳が理解を拒んだ。“俺達”というのは、誰を含んで、誰を含まないのか、わからない。分かりたくない。
「俺達の可愛い可愛い瑠奈も、同じさ」
瑠奈より少し低い、掠れ気味な笑い声が聞こえた。思わず顔を上げる。腕は、迷うことなく女の胸ぐらを掴んだ。
「おっと……はは、いいのか?」
「何がだ」
「俺達はみんな、同じものを見ている。だから……」
厭らしく口の端を吊り上げて、女はまた笑った。
「これも、アイツに筒抜けだ」
「ぐっ……お前」
「卑怯とか、言うなよ? お仲間じゃないか。お前だって、仲間を見捨てた。かつての敵に取り入った。なぁ、これが卑怯でなくて何だって言うんだよ」
女はそれほど力が強いわけではない。けれど、その細腕に押され、地面に座り込む。冷えた目で見下される。
「答えてよ」
一瞬、女が瑠奈と重なって見えた。瑠奈は、寂しそうな、消えそうな、そよ風で散ってしまう花のようだった。
「すまない。だが、俺は後悔していない。あれは俺にとって、どうしても必要なことだった」
瑠奈は顔を伏せた。服の裾を両手で握っている。光る何かが地面に落ちた。瞬間、瑠奈が顔を上げ、胸ぐらを掴んできた。
「っその一言が、ずっと欲しかった」
「ずっともやもやしてた」
「なんであんなことしたのって、ずっとずっと聞きたかった」
「君が理由を話さないのは、ボクを信用しきれていないからだ」
「分かってた。わかってたけど、でも」
「突きつけられるのは、自分でやったけど、でも、やっぱりこわいね」
流れ落ちたのは、瑠奈の悲しみだった。
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作者名:海道 凛 | 作成日時:2018年11月3日 19時