第拾参幕 彼等の心配 ページ14
風丸side
瑠奈が起きてきたのは、夕食の後だった。
「篠宮！ もう大丈夫なのか？」
「うん、心配かけてごめん。もう大丈夫だから」
にこにこと笑う瑠奈は本当に久しぶりで、思わず自分も笑ってしまう。不安そうな顔の円堂が近付いてきて、何か言おうとしてはやめる。
「どうした？」
「あ……その、えっと」
「円堂」
「え？」
やっと決心がついたのか、前を向いた円堂に瑠奈が頭を下げる。
「ごめんなさい。たくさん、酷いこと言っちゃって。きっと傷付けたし、困らせたと思う。本当にごめんなさい」
あわてて円堂が頭をあげさせようとする。ふるふると首を振って嫌がる瑠奈。
「なあ……なんで嫌だったのか、教えてくれるか？」
「う……えっと、呆れないでよ？」
そう前置きして、小さな声で、真っ赤な顔で、何かを言った。
「え？ ごめん、聞こえない」
「〜〜っ！ 記憶、無くなっても。君たちのこと好きだったから、ボクのこと見て欲しくて、それで──」
瑠奈は叫ぶように続けた。
曰く。知らない自分に嫉妬していたのだと。
曰く。自分を見てくれたと思ったら、チラつく宇生賀谷Aの影が鬱陶しかったのだと。
曰く。曰く。曰く。言葉の裏に隠れた思いは、とっても単純で分かりやすかった。
全部、しかたなかったけど、でも嫌だった。瑠奈はそう締めくくり、だーっとキャラバンの方に走っていった。
正直。瑠奈はもっと大人なのだと思っていた。悪い意味ではなく、ふとした対応が大人に近かったから。
でも、全然違った。彼女がいくら大人ぶったって、子供のままだ。
「あっ、円堂くん、風丸くん、篠宮さんに夕ご飯持って行ってくれる？」
「え、まだ食べてないのか？」
「うん、食欲無いんだって断られちゃったんだけど、それでも何も無いよりは、って思って」
お盆に乗っているのは、マグカップのスープと、小さめのおにぎり二つ。随分と少ない。
「いつも、このくらいしか食べてくれないの……」
木野は苦笑いを浮かべて、後片付けが残ってるから、と駆けていった。
瑠奈は、キャラバンにいた。こちらに気付き手を振って、俺たちの持ったお盆を見つけて嫌そうな顔をする。
「……木野に、ごめんねって言っておいて」
瑠奈は大人しく受け取って、おにぎりを一口齧った。
「食べてくれて、よかったな」
「そうだな。よかった」
月明かりが、ほんのり帰り道を照らしていた。
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作者名：海道 凛 | 作成日時：2018年11月3日 19時
