第拾弐話 彼女達の秘密事 ページ13
瑠奈side
「ねぇ、瑠奈、瑠奈！」
「わひゃっ！？」
「あ、起きた」
「起きたな」
「え……？」
少女の呼び掛けで目を覚ます。ぼんやりとかすむ目をこすって、辺りを見回す。所々見覚えのあるものが乱雑に積み上げられ、円形に近い壁を作っていた。
隙間がない訳では無いけれど、通ったら崩れ落ちて来てしまいそうだ。そして。呼びかけてきた少女達は、壁の向こう側からひょっこり顔を出していた。
「なんで、そんなことに？」
「だって、今のスポットは瑠奈のものだもの。無理矢理入ったりしたら、それこそ皆に怒られちゃう。私は、あなたに酷いことしたくないんだよ」
「ま、そうだな。お前のこと心配で心配で仕方ないみたいだから。感極まって突撃しそうな奴らは別んとこに居るから、とりあえず壊れやしないだろ」
この体は元々、彼女のものだ。返さなくちゃ。そう思っても、口から音が出ない。彼女は困ったように笑って、壁の隙間から手を伸ばしてきた。
「しー、ね？ 大丈夫、あなたは心配しなくていいの。私達が何とかしてあげるから」
「此奴が疲れただけだから、深刻に考えなくていい。俺達が出た所で、彼奴らの不信感を煽るだけだしな」
それは、そうかもしれないけど。固く手を握り込むと、彼らは揃って苦笑した。
「こら、そんな握りこんだら痛くなるだろ」
「なんだかんだ、あなたは優しいね。ほら瑠奈、手出して」
両手を二人に取られ、にぎにぎもみもみと遊ばれている。不思議と嫌ではなかった。他人のぬくもりがあたたかかった。
「これから何度も何度も、苦しくなると思う」
「忘れないでいてくれ。俺達はお前を縛るつもりは無い。大切に思っている。やりたいことをやればいい」
「私達、あなたには幸せになって欲しいの。あなたは生きるのがあんまり上手じゃないから、心配なんだよ。だから、だからね？」
──。彼女達がぼやけていく。声も姿も、曖昧なものになる。放された手が冷えていく。
待って、待って、いかないで。話したいことがあった。伝えなきゃいけないことがあった。全てがぼやけて、にじんで、分からなくなっていく。
「ねぇ──」
君たちの名前だって、ボクは知っていたのに。分かっていたのに。口に出せなかったけど、いつか名前を呼ぶ度に笑った顔を知っている。
知っている筈なのに、思い出せない。
ぱちり。
キャラバンの天井が目に入る。
「あれ、なんで──」
涙が流れるんだろう。
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作者名：海道 凛 | 作成日時：2018年11月3日 19時
