終章『生きる、そして』 ページ41
*
「う、ん……」
さわさわと、秋の涼やかな風が頬を撫でる気配がする。
すうっと大きく息を吸ってみる。
土とみずみずしい草の香りがした。……そこにある気は知らない土地のもの。
ゆっくりと、目を開けた。
私は広い草原のなかで、体を横たえている状態。
どうやら、大鵬に、知らない場所に飛ばされたらしい。
いくら意識を研ぎ澄ませて辺りをうかがっても。
大鵬の気配はしなかった。
私の暴走を止める代償に、あの人が逝ったのだと悟る。
「……」
悲しみが胸に押し寄せて、思わず泣きそうになる。
仰向けで見る秋晴れの空。澄んだ青空が目に染みる。
……妙にまぶしくて、両腕で顔を覆い隠して。
少しだけ、泣いた。
*
がさり。
ふと。
草の揺れる音。
それから人の気配を感じた。
思わず跳ね起きて、気配のした方をうかがう。
「――君、大丈夫?」
そこには、私と同じくらいの年格好をした人間の少年がいた。
「……。ありがとう。大丈夫」
「良かった!」
純朴そうな少年だ。
おそらく農民の子だろう。痩せているけれど、がっちりした肩に、色黒の肌。
白い歯を見せて笑う。……その笑顔に、大鵬の面影を見た気がした。
顔かたちは全然違うのに、真っ白な歯を見せて太陽みたいに笑う顔は、私の愛した人のそれにそっくりだ。
大鵬はもう居ないけど。
あの人の残した未来に、彼の面影があるんだと悟った。
「えーと、ちょっといろいろあって。心配かけてごめんなさい」
知らない少年が、いらぬ心配をしないように、笑って頭を下げた。
「いや、この湿地は薬草の宝庫だからな。ここに来たってことは、家族に病人でも出たんだろう? 悲しくもなるよな!」
気にしなくていい、と少年は明るく話す。
なるほど。
よく見ると、少年の顔にまだ新しい、切り傷がいくつかある。
草の間をかき分けて、薬草を探していたのだろうか。
働き者のごつごつとした手には、山菜取りに使うような竹で編んだ籠を抱えていた。
「えーと、あなたは薬草を採りに来たの?」
「ああ! 俺、このあたりに生えてる薬草をとりに来たんだ。弟が病気にかかっちまって。君もそうなんじゃないの?」
「ううん。薬草、間に合えばよかったんだけどね、私の家族は死んじゃったから……」
嘘と本当を混ぜて返した。
薬草は関係ないけど。……家族がいなくなったのは本当だ。
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一花(プロフ) - 零玲飛(れいれと)さん» コメント有り難うございます。そう仰っていただけ、非常に嬉しいです。ここまで目を通してくださったことに感謝します!! 本当にありがとうございます。 (2015年1月28日 21時) (レス) id: c6c51ef31b (このIDを非表示/違反報告)
零玲飛(れいれと)(プロフ) - 感動して泣くかと思った。お疲れ様です。 (2015年1月22日 20時) (レス) id: 0bd3908221 (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - 光珂さん» ありがとうございます。……誤字量の多さが(-_-;) しっかり読んでくださり感謝します。また、後日直します。そして、番外編の件……有り難うございます! おそらくひと月以上開けて、とか忘れたころになるかと思いますが、宜しければ、お願いいたします(多謝) (2015年1月15日 22時) (レス) id: c6c51ef31b (このIDを非表示/違反報告)
光珂(プロフ) - (続きです) 43話目の下から9行目 「まずはこのの人の」→「まずはこの人の」 だと思います! 一応番外編までは確認しようと考えておりますが、もし本編のみで良ければ返信くださると助かります。あ、遠慮はなさらないでくださいね。 (2015年1月4日 2時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)
光珂(プロフ) - 深夜にすみません。 37話目の下から16行目 「それだだけ」→「それだけ」。 40話目の13行目 「私をの力を」→「私の力を」。 同じく下から8行目 「温かな光のなで」→「温かな光の中で」。 41話目の9行目 「大鵬のい気配」→「大鵬の(いる)気配」。 (続きます) (2015年1月4日 2時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:一花 | 作成日時:2014年8月31日 10時