2626.【3】 ページ26
［翔にぃside］
何を言っても、研修医の
心には響かない。
俺にもっと人を説得させられる力があれば…と
思うと悔しくて。
イライラして診察室を出て、医局に寄って
白衣を脱いで…
帰ろうかとも思ったけど、何気なく足が向いた
先が屋上だった。
あれ…？空いてる…
普段は入れない、屋上のさらに奥のスペース。
室外機とかが置いてある所なんだけど、金網で
囲われていて、南京錠で施錠してあるんだけど
南京錠が外れていて、金網に掛けてある状態
だった。
人目に付きたくなかったから、迷わず金網の中に
入り込んで、柱の陰に膝を抱え込んで座る…
どれくらい、そうしてたんだろう。
そろそろ、戻らなきゃ。
ガチャガチャ…
あれ？
金網のドアが開かない…
よく見たら南京錠がかけられてしまってる。
慌ててスマホを取り出そうとしてハッとした。
怒り任せで勢いよく白衣を脱いできてしまった
から、白衣のポケットにスマホを入れっぱなし。
連絡しようにも手段がない。
溜息しか出なくて、その場に座り込む。
18時には屋上の施錠があるから、警備の人が
やってくる。
誰も屋上に残っていないかの確認をしてからの
施錠だから、絶対に見つけてはもらえるけど…
それまで待つしかないのかと思うと悲しいよね。
でも、まぁ…待つしかない。
やっと前向きになれたのに…
黒い雲が空を覆っていて雷も鳴り出した。
ポツッ…ポツッ…
そうだった、今日は夕方に雷雨があるって…
はぁ…ついてない。
ポツポツと降り出した雨は、あっという間に
大粒に。
身を隠すところもなくて、ずぶ濡れ…
さらに追い討ちをかけるように、大粒の雨が
氷の粒へと変化した。
マジか…ひょうか…
雨で濡れた体に、氷の粒の冷たさ。
次第に体がガタガタと震え出す。
ひょうが降り止んでも、雨は降り続ける。
冷たい、寒い…
薄暗いのは雲のせいなのか、それとも夕方が
近付いてきているのか…
後者であって欲しいと願いながら
金網に背を凭れて座る。
少しでも早く気が付いてもらえるように…
不思議だよね。
ここに入った時には、誰にも見られずに一人に
なりたかったのに。
今は誰かに気が付いて欲しい。
体温が下がっていくのが自分で分かる。
途中からは辛すぎて、自分の体なのに
どこか他人の体みたいな感覚で。
このまま1時間くらい経ってしまったら
低体温になりそうだ…なんて、冷静に考えられて
いる自分がいる。
もう、駄目だ…しんどい。
体を横たえて目を閉じた…
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作者名：空
| 作成日時：2017年7月13日 21時
