2625.【2】 ページ25
［研修医side］
翔先生が指導医に
なって、色んなこと勉強してきた。
正直、この先生なら好きになれるかも…って
思い始めていたのも事実。
初めて会った時、翔先生は『今日からよろしく』
ってイケめた顔して握手をしてくれて。
『まだ俺のこと知らないだろうから、俺も何も
知らない。お互いゼロからのスタートな？』って
笑い掛けてくれた。
色んな噂、聞いているだろうに…って
思いながらも、嬉しかったりもして。
しかも、その言葉通り…それから一緒に仕事を
させてもらったけど、一度も先入観や噂のイメージ
で、俺のことを決め付けたり指導したりする
ことはないのが翔先生で。
『あ、やっぱり今までの先生とは違う』って
どこかで嬉しく思っていた。
まぁ、どれもこれも俺の性格が悪いのが
すべての原因なんだけどね。
だけど言い訳をさせてもらうと…
古くから個人病院を営む家系に生まれて。
将来は医者以外の選択肢はなかった。
常に兄弟や周りと比べられて。
良い環境で育ったとは言い難い。
しかも、医者になりたいなんて思ったことも
なくって…
だから正直、研修なんてどうでもよかった。
卒なくこなして、適当に学べれば…って
思っていたから。
気が付いたら『そうですか、すみません』
『分かりました。次からはそうします』
『気を付けます。申し訳ありません』って
何かあるたびに決まった言葉をただ発する人に
なっていて。
どの科を回っても、指導されたことに対して
反論したことはない。
でも…素直に受け止めたこともなかった。
始めは熱心だった指導医も、だんだんと俺の
可愛げのなさと、適当さに気が付いて、指導も
淡々としてきて。
それでいい、それがいいって思っていたのに
寂しさを感じる自分もいて、余計に嫌気が
さしていた。
突端恐怖症の子どもの気持ちなんて、サラサラ
考える気はなかったんだ。
だから翔先生に指摘された時も、決まり文句で
サラッと終わらせようとした。
それなのに「待て」って腕を掴まれて。
翔先生は、感情的な指導はしない人。
でもこの時は、結構厳しく叱られて。
「はい、はい」って終わらせようとしても
逃してはくれなかった。
それでも俺が素直にならなかったからなのか
「ちょっと考えろ」って一言。
診察室を出て行ってしまった。
『本気になんなよ、めんどくせーな！』
これが俺の心の中の一言。
無性に腹が立って、翔先生が居るのを知っていて
屋上の南京錠の鍵をかけたんだ…
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2948人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：空
| 作成日時：2017年7月13日 21時
