2603.【3】 ページ3
［先輩side］
取り乱した翔くんは
手に負えなくて。
診察して投薬したら、少し話す時間を
作らないとな…と思う。
翔「…っ、んー」
「ごめんな」
興奮して振った頭を智くんの肩に抑えつける様に
固定して、耳式の体温計を差し込む。
ピピッ…
「大丈夫…38℃ちょっとだ」
智「…よかった」
智くんに体温を伝えて、今度は聴診器を手に取る。
「そのままでいいよ。隙間見つけるから…」
智「…すみません」
翔「…っ、や…、やだ、離し、て…」
服の上から軽く当てて、心音を確認。
きちんとは診れてないけど、とりあえず急を
要することはなさそう。
「点滴して寝かせてあげようか」
智「お願いします」
「できるかな…笑」
やっぱり成人の男性となると…和くんが抵抗
しているのとはワケが違う。
智くんに腕ごと抱え込まれているから
手の甲に刺してしまうか。
「ここに刺すな。そのまま抑えてられる？」
智「はい…頑張ります」
左手の甲が上を向く様に抱え直してもらって
俺は手を掴んで固定する。
翔「…んっ、んー、ん…、や…」
「翔くん？点滴だけ。これだけやらせて…」
翔「や…、んっ、んー…」
智「…しょう？これだけ頑張ったらおしまい」
翔「んっ…んー、離し、て、や…」
駄目だ…
俺の手から逃れることしか考えていなくて
興奮状態。
翔「…や、だ、…んー、さ…にぃー」
智「大丈夫…」
このまま点滴の針を刺すのは危ない。
「智くん、やめよう。落ち着かせてあげて」
智「でも…」
「大丈夫。後でちゃんと診るから」
智「…はい」
俺がドアの方まで離れて、智くんが抱き締める
腕の力を弱める。
智「嫌だったんだもんね…ごめんね、翔」
翔「…っ、やんな、い？」
智「ん、やらない。大丈夫…大丈夫」
背中をさすりながら智くんが優しく声を掛けたら
クタッ…と体から力が抜けて。
智「…翔？」
翔「…」
呼び掛けても反応しない。
「ちょっと診せて…」
そっと確認したら、眠っているだけ。
意識を失う様に突然だったから、智くんは
ビックリしたみたいだけど…
「興奮してかなり体力使ったから、限界だったん
だろうね。診察から解放されてホッとしたんだと
思うよ」
智「…そっか」
翔くんは、診察や治療が嫌なワケじゃない。
今のこの状況が自分の中で許せないんだと思う。
だけど、智くんの腕の中では安心したような
顔をしているように見える。
点滴を繋いでベッドに寝かせる。
起きたら少し、話せるだろうか…
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作者名：空
| 作成日時：2017年7月13日 21時
