23:夜の雫 ▼ ページ24
新人トレーナー・カイトは、Aが追手から逃れる為に作り上げた姿だった。
長かった黒髪を切り落とし、愛らしさの残る瞳を帽子で隠すことで、完全に別人になろうとした。
だぼついているロングシャツの下、鳩尾の辺りにはあのとき祖父から授けられた宝玉が下がっている。
「サトシ達は、私に優しくしてくれてる。信じてくれてる。…でも私は、その優しさを利用してるだけなんだ」
彼らの真っ直ぐな瞳を見る度、真摯な優しさに触れる度、Aの心はズキリと痛むのだ。
追手から身を眩ませるだけの隠れ蓑。
彼らが探しているのは、ポチエナを連れた黒髪の少女・A。仲間達と旅をする、グラエナがパートナーの"カイト"なら、ずっと逃げ易くなる。
…けれど。
「私は自分のことしか考えてない。みんなを利用して、危険なことに巻き込んで。何も知らないみんなの後ろに隠れるだけ隠れて、少しでも危なくなったら切り捨てるんだ…っ」
『…違う、違うんだAっ!お前にそうさせたのは俺らだ!』
『お前が心を傷める必要などない…!!』
グラエナとエアームドは額をぐりぐりと押し付けて、違う、違う、と訴えた。
「でも…でもね、」
今にも泣き出しそうな顔をしたA。しかし決して涙は流さずに、前を見つめ続けた。
「サトシ達を裏切ることになっても、私はやる。やらなきゃいけないの」
誰に強いられたわけでもない。
それはA自身の覚悟であり決意だった。
夜空を写し揺らめく湖面を見つめ、Aは静かに歌い始めた。
年に一度、伝説の天の使いに祈りと感謝を捧げる祭りで、巫女に扮して歌う歌。それはかつて、使い達が歌っていたものだと伝わっている。
メロディを紡ぐ度、村のことが思い出される。
大好きな祖父。優しい村民。
その人達のためだけではない。
代々受け継がれてきた大切な、村のみんなが大切にしている宝玉。他の誰でもなく自分自身が、それを卑劣な奴らの手に渡したくないと強く、思うから。
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桜光 - ピカチュウ・・・が崩壊してる(;・д・) (2018年12月28日 21時) (レス) id: c1c7fb77d9 (このIDを非表示/違反報告)
こうもり(プロフ) - さん» 謎を作ってしまい本当にすみませんっ!ずっとミスしたままになるところだったので、とても助かりました!そう言っていただけてとても嬉しいです、ありがとうございます! (2017年1月10日 15時) (レス) id: 2edc5e6d88 (このIDを非表示/違反報告)
- それに、よくある作品のように話の内容もぶっ飛んでなくてしっかりしてるし、文章も上手のようなので……とても好きです!これからも頑張ってください。((突然すみませんでした。 (2017年1月10日 13時) (レス) id: 3c17733505 (このIDを非表示/違反報告)
- あ、いやいや目に余るなんて……貴方の作品は凄いと思っています!そういうことだったんですね。謎が判明して良かったです。 (2017年1月10日 13時) (レス) id: 3c17733505 (このIDを非表示/違反報告)
こうもり(プロフ) - さん» 私も時折見返して変換ミスがないか確認していますが、それでも見落としてしまうことがあります。目に余るようでしたら、何話目にミスがあるのか教えてくださると嬉しいです!出来る限り早く対処させていただきます。ご迷惑をおかけしてすみません。長文失礼致しました。 (2017年1月10日 12時) (レス) id: 2edc5e6d88 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こうもり | 作成日時:2016年7月18日 7時