scene280 ページ30
・
なんと言葉をかければいいのか、わからなかった。
なにを言っても無意味な気がした。それってつまり、人になんと言われようと、自分が納得できないと意味がないってことだろ？
おれにできることなんてなにもないってことだ。
ショックはあった。Aがそんなことを考えていたとは、まったく知らなかったし。
でも、不思議と失望はなかった。もっとがっかりするような気がしていたけど、Aの言っていることが、すっと入って来た。
それはきっと、これが紛れもないAの本心だからだ。
「うーん……なんで今、こんなこと話しちゃったんだろう」
Aは伸びをする。
「いつか話さなきゃならないときが来ただろうし、タイミングなんてなんでもいっか」
そう言った声は少し晴れ晴れとしていたような気がした。でも、Aの微笑む顔には、少し寂しそうな色が滲む。
「そんなこと思うくらいなら飛び降りたりすんなよ……」
本当に会えなくなると悟った瞬間の気持ちは、おれにはわからなかった。
それでも、なんでもないことのように話すAに、なんだか腹が立つような、悲しくなるような気持ちだった。
「そうだね……そうだよね」
Aは眉を下げて笑顔を見せる。
この気持ちはなんだろう。なんでこんな気持ちになるんだ。
唇を噛んで、その感情がどこかへ行ってしまうまで、じっと耐えていた。
そのとき、どこかで音がした。
驚いてAは振り返る。
「この音だ……行ってみよう、ヒロト」
手を引かれて、おれは立ち上がる。
・
少し行くと、どこからかブーという妙な音がする。
「なんの音だ？」
「わかんない……あっちの方からする」
音がするのは、出口の方向のようだった。
「音の正体って……これか」
明かりを向けると、それはブレーカーだった。相当古いもののようで、鈍い音を放ちながら震えている。
Aはそれを見てポカンと口を開ける。
「なんだ……これだったんだ」
ほっとした様子で胸をなで下ろす。
「夜中に連れまわしてごめんね。……戻ろっか」
暗闇の中で、ガラス玉みたいな瞳が揺らいだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 56人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ペナ紅 - やっぱ電話の相手、半田だったんだ…！ (2021年7月5日 16時) (
レス) id: 173b2b90f1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆめのわたし(プロフ) - 完結おめでとうございます。高い文章力ですごく引き込まれました。私事ではありますがわたしは基山ヒロトが好きで吉良ヒロトがどうしても好きになれずこの小説を取っ掛りとして読ませていただきました。あなたの作品で彼のことを好きになれました。 (2020年12月8日 18時) (レス) id: 0a912f5e29 (このIDを非表示/違反報告)
りと - 完結おめでとうございます！丁寧かつ読みやすく想像しやすい文章でサクサク楽しく拝見できました！個人的には甘くない終わりにくそぅ！と思いつつでも現実だったらそうだよなぁとしみじみ受け止めました。笑 また是非に文字を書き続けてください！応援しております！ (2020年11月22日 15時) (レス) id: 4c41bf9741 (このIDを非表示/違反報告)
彼方(プロフ) - とっても楽しく読めました！大好きな作品です！完結おめでとうございました！ (2020年3月17日 10時) (レス) id: 40379c818e (このIDを非表示/違反報告)
鬼跡 - 完結おめでとうございます⊂((・x・))⊃この作品本当に大好きでした！！！！大好きです！ヾ(＠⌒ー⌒＠)ノ (2019年12月18日 18時) (レス) id: 8e87660fcc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作成日時：2019年8月22日 20時
