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◇
黄瀬はそこまで言って上を向く。………珍しく裏表のない言葉、表情の横顔。その顔で「でも」と続ける。
「でも、やっぱり好きだから、らしくもなくいいとこみせようとして変にかっこつけちゃうし、………朱センパイのこと、知れば知るほどどんどん好きになって。
自分でも気づかないうちに、触りたいとかもっとそばに居たいとか……そんな欲求ばっかり膨らんじゃって…………。
幸せとかそんなのはただの建前で、結局逃げてたんだと思うんす。だから」
カタン、と黄瀬は自分の靴を地面に落とした。それに足を通して、カバンの取っ手を握った手前に出す。
「……腹、括って今度はそういう朧気な関係じゃなくて、朱センパイの彼氏になれるように、頑張ってみようと思ってるんすよ、俺」
そう言って黄瀬は桜にそのカバンを持った拳を向けて笑みを見せた。いつもの営業スマイルじゃない、穏やかな笑顔。こう見れば本当にイケメンなんだな、モデルなんだな、って思うくらいにはかっこいい、笑み。
桜はそれを見て持ってたペットをポケットに入れて、くすりと笑う。
「……なんか、ヤりたいから彼氏になりたいって聞こえるんだけど」
「ひどっ！！！！そりゃしたくないわけじゃないすけど！！！でもそういうの抜きでも＿＿「私は」……？」
「…………私は、ずっと朱ちゃんを見てきた。だからこそ朱ちゃんには幸せになって欲しいって心から思うんだ。
だから朱ちゃんが困ってる時に関係ない顔出来ない。それこそ、黄瀬が朱ちゃんを傷つけたりしないか見張ってた。……けどね」
桜は自分の拳を黄瀬が前に出してる拳に押し当てた。
「本気で…本気で、朱ちゃんを幸せにしてくれるなら………応援、くらいはしてあげる！」
そう言って笑顔を向けた。
…………私は朱ちゃんが好きだ。そりゃあ理解できないこと、沢山あるけどこの気持ちに嘘はない。
あのこの事情をすこしでも知ってるからこそ、心の底から幸せになって欲しい。それができるというのなら……私は託すよ。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、黄瀬はその笑顔のまま「ありがとう」と言った。
………明日から、朱ちゃんと黄瀬がどう関わっていくのか、どうなるのかわからない。けど、やれることはしたいと、そう思ったんだ。
(嬉しいって……なんで？)
(センパイの唇、柔らかかったな)
(私にできることは………)
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作者名：O | 作成日時：2021年10月29日 16時
