キミを想う日【倉持洋一】

episode.01 ページ2

*


俺が今でも忘れられないほど
あいつを想うようになったのは
あと２ヶ月もすれば受験生という縛りができる頃。


ある提出物を出すまで部活に出るなと
顧問から言い渡され
教室に残り項垂れながらも机に向かっていた時


───ガラッ


急にドアが開き、目を向ければ
学級委員の綾坂が忘れ物を取りに来たのか
俺と目が合うなり慌てて逸らし
教室の窓際の一番前の席へ向かう。


外見からして問題児だった俺は
こういう反応には慣れているから
気には止めず再び提出物に視線を戻した。


すると


「ねぇ…」


誰かに呼び掛ける声が聞こえるが
他に連れでもいたのかと顔を上げずにいれば


「ねぇってば！」

「……」

「倉持！」


教室に響き渡る声で名前を呼ばた。


「！…え、俺！？」

「他に誰がいるの」


呆れたような表情を浮かべられるが
俺は情けなく口を開けたまま。


真面目で大人しい印象のある
ウチの学級委員長。

そんな綾坂が俺なんかに声をかけるなんて
思ってもみなかったからだ。

しかも、「倉持」と呼び捨てで呼ばれた…。


「…なんだよ」

「あのさ…好きな人って、いる？」


……スキナヒト？


「急になんだよ…。
つーか、いるように見えるか？」


ほぼ自虐のような俺の言葉に
綾坂は何故か安堵した様子を見せると
机の横に引っかかっていた袋から
何かを取り出した。


「これ…」


差し出されたものに俺は目を見開く。

手作り感溢れるリボンで結ばれた袋から
チョコの匂いが鼻をくすぐった。


今日はバレンタインで、教室で朝から
女子たちが友チョコを交換しているのを
男子らがそわそわしながら見ていた。

その男子らの中に、少なからず
どこかで期待していた俺も含まれていたけど

やっぱり貰えず、諦めていたところに
まさに今、目の前にチョコが舞い降りてきた。


「…くれんのか？」

「…うん」


そのチョコを受け取ろうと
恐る恐る手を伸ばそうとした時
ひょいっと高く上げられる。


「タダでとは言ってない」

「金取んのかよ！」

「違う！……付き合って」

「…は？」

「だから！私と付き合って！！」


印象からは到底、想像出来なかった
綾坂の口から発せられた言葉。


顔を耳まで真っ赤に染めた綾坂は
バツの悪そうに俺から目を逸らす。

そんな綾坂から伝染するようにだんだん
俺の顔も熱を帯びてくるのがわかった。


「……俺なんかでいいんなら…」


そう言ってチョコを受け取れば
綾坂は嬉しそうに口元を綻ばせた。

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